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《第百五十四話》『どっこいしょ』
「む、もうこんな時間か」
夜貴がいつもの通り仕事に出掛けている日。普段の家事を終えてソファで3DSをしていた妾は、時計を見て思わずつぶやく。
と言うのも、今日は買い物へと行くつもりだった。それも、ただの買い物ではない。故に、いつもとは異なり、気を引き締めねばならない。
「どっこいしょっと――」
いかんいかん。ついオバサン臭い言葉が立ちあがると同時に出てしまった。――既にバアサンを通り越した未曽有のお年寄り、とか言う奴がこの場にいたら、即焼き殺しているが、この部屋には妾しかいないのでそんな事はあり得ない。
「――よし」
メモは持った。財布は持った。お買い物袋も持った。出かけ先はスーパーだが、今日のこの日に買うモノを考えれば、より一層緊張は高まっていく。
「いざゆかん、光刺す未来への標を手に入れるために!」
家の扉をかけ、わざと大袈裟気味に宣言をし、ウキウキとした気分で太陽を拝む。第一段階を終えれば始めてやる作業が残って居るが、大丈夫だ。妾ならば、きっとやれ――、
「あ」
戻って来たばかりの車の鍵を忘れてきた――。




