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《第百五十三話》『そのころの』
「お、い」
「は、はい、鳴狐様――」
「なんじゃか、すっごく気分が悪いんじゃけど――」
「だからお止めしたではありませんか! 味噌の原料は大豆ですと!」
「煎ってなければ魔避けもへったくれもなかろうが!? う、うおお――身体が沈むぅうううううううううううううううううううううっっ」
「な、鳴狐様ーっ!?」
頭痛、めまい、吐き気。味噌樽に真正面から突っ込んだ鳴狐は、すさまじくつらい気分と共に、まるで砂漠の流砂に飲まれるかのごとくその身を沈ませていく。
彼女は知らなかった。ここで作られている味噌は、香ばしさを作るために、煎った大豆がメインで使われていることを。
「の、のう、侍渺茫?」
「な、何で候鳴狐様!?」
「――ひょっとして、余は狂気鬼の奴に騙されたのではないかえ?」
「…………」
「…………」
「いえ、その――鳴狐の勢いを誰も止めることができず、申し訳ございませぬ」
「おのれ狂鬼姫ィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!」




