《第百五十一話》『久々の赤に沈む』
「そうだ夜貴」
「何?」
僕は案外ぺろりと小鍋一杯分を食べきった呉葉のお椀を片付けながら、呼びかけに耳を傾ける。ええっと、この後は洗濯物を畳んで――掃除は……ううん、熱に浮かされながらしていたせいかぐちゃぐ――、
「妾のニオイ、嗅ぎとうないか?」
「ぶーっ!?」
今の発言で、僕の頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「おお、鼻血でなく唾液で済んでいるのは成長している証だな」
「そりゃあ、普段から呉葉が――じゃなくて、何いきなり言いだしてんの!?」
「ほれ、熱がある故に、妾はしばらく湯浴みをしておらぬだろう?」
「そもそも、風邪じゃないのにそれに意味があるのかどうか分からないけどね」
「そして、発汗しておる。それはもう、身体中汗でべとべとだ」
「昨日一回拭いたじゃないか! ――死にそうになりながら」
「なんにせよ、今日はまだこの身を清めてはおらぬ。さて、夜貴よ」
「…………」
「大チャンスだ」
「チャンスだろうが何だろうが嗅がないよ!?」
熱は引いたんだろうけど、引いたとたん相変わらずになってしまった。いや、あのままでいいかと言われると、それは違うってはっきり答えるんだけどね?
「むふふっ、そう言うな」
「うわぁっ!?」
ベッドから身を乗り出した呉葉に服をつかまれ、引き寄せられてしまった。そうして飛んだダイブ先。――この、慎ましやかだけど柔らかさのあるこれって……ッ!?
「おや、何ともダイレクトに胸へと来てしまうとは。だが、妾は不快ではない。むしろ、お前の頭がこうやって抱きしめられる位置にあるのは心地よい」
「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ――……」
「――む?」
……――ぶばぁっ!!
「――ううむ、秒数にして3秒とは、情けない……」




