《第十四話》『パンドラの箱』
「樹那佐、お昼どうするんだ?」
狼山先輩の声に振り向くと、彼は両手にカップ麺を持って立っていた。
きっと、僕の分も用意してくれたのだろう。先輩は優しいヒトだ。
「いや、大丈夫です。僕には、呉葉の作ってくれた弁当がありますから」
「それは――投げ飛ばされて中身がきっと大変なことになってる奴じゃないのか?」
「いえ、そうであっても、折角呉葉が作ってくれたものですし」
彼女は持ち帰ろうとして忘れてしまったようだが、むしろ僕にとってはそちらの方がよかった。
例え中身が悲惨なことになっていたとしても、僕のために手間をかけてくれたことが、たまらなく嬉しい。それに、いつも持たせてくれているだけに、その気持ちを一日たりとも無駄にしたくないのだ。
「――さて、と、」
僕は行っていた事務仕事に区切りをつけ、風呂敷の結び目を解く。
中から現れたお弁当箱は、高級感のある赤色をしていた。と言っても、それは見た目だけであり、素材はプラスチックだが。
そうして、僕は蓋を開ける。昨日の宣言からして、中身はレバー主体だろうか? それとも、いつもの通り煮物や温野菜がベースの、綺麗でシンプルなモノだろうか?
そう言えば、彼女は「上出来」と言っていた。ということは、すなわち何らかの手間をかけたモノなのだろう。それに心躍らせながら、元の原型を拝めないことを少々残念に思いながら、それとご対面する。
「――っ、ハートの化け物ッッ!?!?」
――赤色のハートに黒豆が斑点のように広がった弁当が現れた。だめだこれ、検索してはいけないワード「蓮コラ」が苦手なヒトがフラッシュバックするやつだ。




