《第百四十七話》『ザ・不謹慎!』
「アンタねぇ、退魔の仕事してんだから、煎った豆が魔避けになるって知っておきなよ」
「う――」
ディア先輩に呉葉のことを話すと、ものすごくため息つかれながら呆れられた。
呉葉が千粒の大豆を食べてから、今日で三日目。体調の優れない彼女は、今日は腹痛を訴えていた。あんなにつらそうな状態が続くのは見たことが無い。
「しっかし、呉葉ちんでも流石に千粒は――いや、普通千粒食べようとは思わないよ」
「呉葉、大丈夫なんでしょうか――」
「さっきも言ったけど、煎った豆は魔避けになる。けど、その効力っていうのは、低級妖怪とか、下級悪魔とか妖精とか、そのあたりが限界なんだよ。けど、それは10粒とか100粒とか。あくまで『撒く』程度のレベルの話さ」
「つまり、千粒ってのは――」
「今夜あたりが山だね」
「えっ――」
僕は血の気が引いた。思い浮かぶのは、ウキウキした様子で、スーパーで買ってきたであろう多量の煎り豆の袋を抱える呉葉の姿。あの時それが危ないと知っていて、止めることができていれば――、
「じょ、冗談だよ!? そ、そんなに青くならなくてもいいじゃないか!」
「ふえ――?」
「いかに千粒の煎り豆とはいえ、呉葉ちんクラスの鬼神ともなれば――まあ、せいぜい人間で言う腐った牛乳飲んだ程度と同じくらいだと思うよ」
「…………」
「そ、そんな顔するなよ!? 悪かった、縁起でもない冗談言ったアタシが悪かったって!」
「そう言えばディア先輩、半分は悪魔でしたよね」
「お、おう――?」
「ここに、狼山先輩が遊ちゃんと豆まきするようで買ってきた煎り豆のおすそわけが」
「――は?」
「鬼は外ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「ぎゃああああああああああああっっ!? 目がァ、目があああああああああああァ!?」
悪い鬼を、僕は目の中へと大豆を入れるという少ない量でも効果のある方法で懲らしめてやった。
――それにしても、呉葉大丈夫かなァ。




