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《第百四十六話》『一晩開けて』
「ううっ、気分悪いぞ――」
朝。僕が家を出る直前になってという、珍しく遅起きの呉葉は、青い顔をして言った。
「大丈夫?」
「腹が痛い、張っている、今にも戻しそう――うえっ」
「だから昨日、あんな無茶はよせって言ったんだよ?」
と言うのも、節分は年の数だけ豆を食うモノだと言いだした呉葉が、本当にその年齢――もう少し具体的に言うなら千粒強の煎った大豆を食べたのだ。
「馬鹿者、この鬼神と呼ばれた妾が、豆ごときに後れを取ってもよいモノか? 否、いいはずがあるまい?」
「大丈夫? お腹も、頭も」
「ストレートに罵倒しおったな!? 所詮貴様は20年弱しか生きておらぬ人間、豆の数もその程度で済む者に、この気持ちは理解でき――うぷっ」
――正直、冗談抜きで辛そうだった。自業自得、というかアホの所業以外何者でもないのだが、体調が戻るまで一緒にいてあげたほうがいいだろうか?
「しかし、アレだな――」
「――?」
「鬼に対して豆が効くのは、本当だったのだな――」
「うん、人間にもよく効きそうだよ」




