《第百四十四話》『滅びの石の、その在りか』
「――で、殺生石は結局どこにあるのさ?」
藍妃を近所の公園のベンチまで運んだあとで、僕は呉葉に聞く。彼女曰くドジとはいえ、九尾の狐が見つけられないからと早々に出向いてきたのだ。どんな場所に隠したのか、純粋に気になった。
「ナイショだぞ?」
と、呉葉は口元へ指をやって秘め事を示すポーズ。そうしてから、もう一方の腕を伸ばし、その指先でピッと空間に線を入れた。
「殺生石は、ここにしまってある」
それは、呉葉が作りだした疑似世界だった。
「なるほどね――そこなら、誰にも見つけられない、か」
「この空間は妾が完全に支配しているからな。妾自身が開かぬ限り、干渉することは不可能なのだ」
「つまり、ほぼ絶対に安全なんだね?」
「――妾自身は、母の遺体とも言うべきコレを返してやりたいのだがな。だが、あやつは昔と同じく怨みの塊のまま。そんな奴に、この妖力の塊とも言うべき殺生石は渡せん」
「お母さんを裏切られた人間の怨み、か――」
「ボクがおもうに、きっとわからなくなってるのさ」
「そう言えばイヴ、お主思いっきり言葉で鳴狐の奴を圧倒しておったな」
「きしんはどうにも、ちからがたりないようだったからね」
「ずぅ~ん――……」
「こ、これ、イヴ!」
「――あのきつねは、きっとつよくおもいつづけているうちに、そのこんげんすらもあいまいになりかけてるのさ。キミも、そういうけいけんはないかい?」
僕はそう問われるが、今一ピンと来なかった。だけど、呉葉だけは思いたることがあるようで、僕や零坐さんのような沈黙とはまた異なっていた。
「――どちらにせよ、奴が活動を始めたことで、警戒を強めておく必要がある。決して油断するでないぞ」




