《第百四十三話》『つかない決着』
「ここは退散させていただく! 御免!」
「うぷわっ!?」
侍渺茫なる妖怪が何かを地面に叩きつけると、そこから白い煙が一瞬にして辺りに充満した。
「くっ、煙幕――!? と、唐突に逃げ出さないでよ待ちなさい……ッ」
しかし、煙が明けるとそこに九尾の狐やその配下の姿はなかった。藍妃の言った通り、逃げてしまったのだろう。――そりゃあ、主が言葉責めで悶絶しちゃったら、抱えて走って逃げたくもなるよ……。
「…………」
「呉葉――?」
そんな中、呉葉は遠くの空をじっと眺めて立っていた。
あの九尾の狐にした忠告。昔から、何らかの因縁はあったようであるが、その必死な様子は、ただ「知っている」と言う様子とは、少しばかり違うように思える。
――そう、例えば、昔からの友人であったかのような。
「あの九尾の狐、逃がすわけにはいかないわ――! そんなこともあろうかと、今作ったこの妖怪レーダーを使って、」
「なあ、静波多 藍妃」
「うん? 何――」
藍妃が振り向くと、いつの間にか彼女の近くにいた呉葉が、その両目をじっと見つめていた。――もしかしてそれって、
――ぱたり。
「すまんな、今日のこのことは忘れてもらう」
「――藍妃って、こんな目ばかりあってない?」
「まだ二回目だから大丈夫だ。――さて、適当な場所へと置いて来てやってはくれまいか?」




