《第百三十九話》『かこがほのおにつつまれるはなし』
「ははうえっ、ひが、ひがせまって――!」
「ふむ――」
「もう逃げられはせぬぞ、大陸より渡りし悪魔、白面金毛九尾の狐! 観念するがよいッ!」
「ははうえっ! ははうえっ!」
「こうなってしまえば、仕方ないのう。ツケ――と言うにはこれでもまだ優しいくらいじゃが」
「――? ははうえ、なにを……? そ、そんなにつよくだきしめられたらくるしいのじゃ」
「鳴狐――お前は逃げるのじゃ」
「は、ははうえ――?」
「周囲は囲まれ、余はこの通り満身創痍。もはや、先ほどまで使い続けていた惑わすための幻術さえ、封じられたときている」
「ははうえ、なにをなさるおつもりなのじゃ、はやくいっしょににげましょう!」
「ここか、九尾の狐! ――この部屋ではないか」
「近くまで迫ってきおったな」
「ちちうえ、そうじゃ、ちちうえ! ちちうえがきっとたすけてくれるのじゃ!」
「――父上、か。残念じゃが、今のあのヒトには、それは出来そうにないのう……」
「な、なにゆえじゃ!? なにゆえちちうえはわれらをたすけられぬのじゃ!?」
「――鳴狐」
「は、ははうえっ!?」
「余の残る妖力全てを使い、お前を他の場所へと転移させる。幻術以外は封じられておらぬからのう。一人くらいなら何とかなる」
「い、いやじゃ、ははうえっ! ははうえっ!」
「鳴狐――……人間を、怨んではならぬぞ」




