《第百三十七話》『怨嗟』
「フハハハハ! 余は剣には絶対の自信があるぞえ?」
「ぐっ――!」
九尾の狐の剣を、刀で受け止める呉葉。しかし、余裕気な妖狐に対し、鬼神はやや押され気味な様子だった。
「呉葉――!」
「鳴狐様の邪魔はさせんで候」
「――っ、夜貴!」
助けに入ろうとすると、侍風の男が刀で斬りかかってきた。危うく、真っ二つにされるところだった。藍妃が割って入ってくれたおかげで、当たらずに済んだが。
「君たちは、なんでそんなに殺生石を欲しがるの!? そりゃあ、お母さんの形見かもしれないけど、君たちの言い方だと――!」
「当然、余の力の糧とし人間共を滅ぼすために使うつもりじゃ!」
僕は呪符を取り出して侍に対抗しつつ、その九尾の狐の言葉を聞いた。まさに呪いを吐くようなその声色は、深い増悪がつまっている。
「無駄口を叩いている間に、拙者が輪切りにしてしまうぞ?」
「アンタもあいつに賛同してるってヤツ? そんなんだから、アタシらに敵視されるのよ! そこの狐の母とやらも!」
「拙者は、ただあの方に忠誠を誓う。それだけで候。だが、鳴狐様は、そして母君は――」
「小娘、まさに傲慢な人間的考えじゃな?」
侍の言葉を遮るように、九尾の狐は声を発した。
「我が母は、人間である夫のことを好いておったし、その部下たちもとても大切にしておったのじゃ。互いが互いをいつくしむ関係があった。そこに、一切の敵意などなかったのじゃ。――だのに!」
「ぅ、ぐあ――っ!」
「呉葉!」
こちらにまで焼けるような熱気が伝わってくる炎と共に、呉葉は吹き飛ばされた。そして、それを行った狐と人間の半人半魔は、怒りをたたえた瞳で僕らを睨んできた。
「その正体を知った途端、囁き続けてきた愛などなかったかのように、その命を奪った――ッ!!」




