《第百三十二話》『大悪狐の娘』
「えっ、娘――!?」
だけど、それに妙に納得してしまった。強力な妖力を確かにこの九尾の狐は持ち合わせてはいるが、噂に聞いていたほどの凄みが、少々足りないように思えたのだ。
――それでも、流石に1000年以上生きているだけあり、その力の濃度は本物のようだが。
「ふん、貴様ら鬼は、元は人間だったな? ならば、そのような態度をとるのも、ある種当然ということかのう?」
「何が言いたい?」
「いいか、余の母にして偉大なる『白面金毛九尾の狐』は、人間に裏切られたのじゃ。それも、あれほど想っていた夫――薄汚い人間の、余の父にな」
「だから、アレは仕方がなかったのではないかと言うのは、以前も説明をして――!」
「うるさいうるさい! 立場が何だ、己の地位が何だ! 愛すべき者を守るには、いかなる犠牲であっても払うモノではないのかえ!?」
「っ、マズいな――!」
呉葉は一回転し、横から叩きつけるように刀を振るった。
その威力はとんでもなく、九尾の狐は受け止めたように思えたのに、勢いを殺しきれずに吹き飛び、家の壁を突き破っていった。
「人間は、常日頃愛が何だ、心がどうだとほざいていたのう? じゃが、現実はどうだ? 結局、それは偽善にまみれた自己愛であり見せかけではないかえ? これほど醜悪で邪悪で、そして狡猾な存在を、余は他に知らぬ」
だが、吹き飛んだ先――庭で、大して傷を負った風でもなく平然と九尾の狐は刀を構えている。その背後で、九つの尻尾がその言葉の増悪を表すかのごとく揺れ怒っていた。
「――夜貴。零坐。そして、イヴ。ここから逃げたほうがいいやもしれん」
「っ、どう言うこと――?」
僕が問いかけると、呉葉は九尾の狐へと向け刀を構えた。
「尋常ならざる被害をこのあたりが襲うということだ――!」




