《第百三十一話》『人と妖怪』
「そもそも、どうして貴様はそれ程殺生石に拘るのだ? そんなモノなくとも、存外に力は強いではないか。ドジだけど」
「ドジは余計じゃ――! どうせ貴様は人間に頭を下げることになんら疑問を持っていないのだろうが、余は違う!」
九尾の狐の指から、まるでびしっという音が僕へ飛んできたようにさえ思えた。
「生意気な人間共を、そしてそんな人間共が作り上げた平和維持継続室なる身勝手な組織を成敗してやるのじゃ! だが、下賤な人間と言えど、その力は侮れん! 故、余はさらなる力を手にすべく、殺生石を求めているのじゃ!」
「ふん、貴様は相変わらずのようじゃな。父親が泣くぞ」
「――っ、卑怯な人間がどう思おうと、余の知ったことではないわ!」
そう怒鳴るなり、九尾の狐はどこからともなく剣を取り出した。一見すると古いインドの剣のようであるが、そこには濃度の濃い妖気が込められていた。
「母の形見の錆になるがよい――!」
「っ、こんなところでそんなモノを振り回しおって!」
呉葉は空間の穴から日本刀を取り出してそれを受け止めた。二つの刃がぶつかり合い、火花が飛び散る。
「いつまで経ったら、人間への敵意をやめるのだ――! 貴様は、大妖狐と人間の間に生まれた、本来なら互いの懸け橋となるべき存在であろう!」




