《第百二十九話》『九尾の狐』
「――じゃなくてさ、本当に大丈夫なの?」
「んは? はひはは? もぐもぐ――」
「そんな食べてばかりだと正月太りするよ? それは置いておき、九尾の狐って――あの伝説の妖狐のことだよね?」
狐に九つの尻尾がある。本来狐と言うのは、年を経てその尻尾を増やし、蓄えられる力を増やしていく。しかし、神に認められた善狐――いわゆる天狐と呼ばれる類は、その一部を身の内に取りこめるようになり、尻尾の数は減っていく。神に、変幻自在な能力を授けられるのだ。
しかし、その神々の敵である悪狐にはそれができない。そして、悪狐は神の眷属ではないために敵とみなされ、狩られて来た歴史がある。
――すなわち、九尾の狐、白面金毛九尾の狐とは、長い年月、数多の敵と戦い続け生き残ってきたトップクラスの妖怪なのである。幾多の国を滅ぼし、やりたい放題した狐の大妖怪。
――だけど、九尾の狐ってとっくの昔に退治されてたような?
「あの九尾、と問われると、ふぅむ――」
「呉葉――?」
「確かに、その妖力は持っている。長い年月の上で蓄積された力は、とんでもなく強力であるのも間違いない」
「何か、引っかかるようなモノ言いだね――」
「それはそうさ。なにせ、あやつは――」
「ようやっと見つけたぞ、狂鬼姫ッッ!!」
若々しく、艶と張りのある声が、リビングの扉が開くとともに部屋の中に響いた。
「よくぞここが分かったな?」
「くっくっく、ここで会ったが千年目! 今こそ貴様より殺生石を――にゃあっ!?」
あ――イヴちゃんの捨てたアイスの袋踏んで引っくり返った……。




