《第百二十八話》『つよいようじょ』
「ねぇ、イヴちゃん。いったい何の本を読んでるの――?」
「そうたいせいりろん」
リビングのソファに座って足をぷらぷらさせながら、しかしその体躯には明らかに釣り合わない分厚さの本を読む少女に問いかけをしたら、それ以上に不釣り合いな言葉をついでに舌足らずな言葉遣いで返された。それも、アイス食べながら。
「すごいね――イヴちゃん、何歳だっけ?」
「ごさい。べつに、ふしぎでもなんでもないよ。みんな、これくらいよんでるだろう?」
「うーん、少なくとも僕が五歳の時は、読まなかったかなぁ――」
「はんっ! ガキが気取りおって。何が『そーたいせーりろん』だ」
「ちょっと、呉葉――」
――やめといた方が、いいんじゃない?
「そんな歳でそんなモノが分かったところで、無駄もいいところだ。将来の『しょ』の字もまだ見えておらぬというのに、見栄を張る必要もなかろうに?」
「そうだね。たしかに、ぼくのねんれいではまだまださきのことはわからない。これをまなんだところで、じっさいにやくにたつかどうかはわからないよ」
「ふふん、そうだろうそうだろう? 妾の言う通りだろう?」
「だが少なくとも、いきあたりばったりにこうどうし、わかっているだけでも20ねんほどをてれびげーむについやし、けっこんしてからもむだにさんざいし、おまけに1500まんのくるまを150まんといつわってこうにゅうするなんちゃってきしんより、なんおくばいもましだとはおもわないかね?」
「えっ、1500万――?」
「や、やめろォ!? 妾の歴史の闇の部分を紐解くなァ!?」
「ふふん」
何か気になること(特に最後)を一通り明かしてから、イヴちゃんはアイスの包み紙を床に捨てて笑った。明らかに、馬鹿にしたような笑みだった。
二之前 イヴ――恐ろしい子……ッ!




