《第百二十五話》『戦争と言うモノは悲しいモノなのよ』
「ふぅむ、これだけ探しても見つからんとはのう」
余は屋敷入り口前の階段にドカッと腰を下ろし、苛立たしげにそう呟いた。いつの間にやら、世の艶やかな美しい黒髪が振り乱され、自慢の金色で尻尾はもはやその輝きを失っているかのごとくボサボサにされてしまった。おのれ狂鬼姫!
「見つけた結界、鳴狐様の仰った場所は全て探りを入れたで候――」
「探せど探せど、出てくるモノはくっっっっっっさいニオイのするものばかり。そうでないものが出てきた時は、思わずほっとしてしまうほどじゃ。――いっそ、このような屋敷なぞ吹き飛ばしてくれようか」
直接攻撃されているわけではないのに、まるで苛烈な攻撃を喰らっているかのようなこの状況。これほどの屈辱を味わったのは初めてかもしれない。
「お待ちを。余分な力を使うべきではないで候」
「分かっている。この屋敷は特殊な呪術で作られたモノじゃ、それをすれば大きく消耗することは承知している」
「――では、いかがなされますか?」
侍渺茫の、顔色をうかがうような声。使い手がいなければヒトを斬れぬ刀にとって、主の意向というのはこれ以上なく重要な故、恐ろしくても聞かざるを得ないのだろう。
勿論、愚者ではない余は、部下に当たるなどと言うことはしない。
「ふふん、確かに、この場所には殺生石は隠されていなかった。じゃが、そのかわりと言ってはなんじゃが、いいものを二つも見つけた」
「いいもの、ですか――?」
一つずつ手がかりを見つけ、解決に向かってひた進む。遊んでいるわけではないが、それでも、口元がにやけるのは止められない。
「下僕共に、闘いの準備をさせよ。これより、狂鬼姫の元へと向かう」




