《第百二十三話》『狂鬼姫・罠屋敷』
「お、おのれ狂鬼姫め――よもや、このような罠を張っていようとは……」
ちらりと見てすぐ蓋を閉じ、この余ともあろう者が戦術的撤退をしてしまうことになったが、今のアレは缶詰に詰められた魚の死骸だった。ほぼ液状化しているあたり、かなり長期にわたって放置されたモノに違いない。
「い、いかがなさいます、鳴狐様――?」
「あれが寄せ付けぬためのモノだと考えて、先ほどの場所はしもべに探らせるとして」
「本気ですか!? 勘弁していただきたいで候!?」
「他にも怪しい場所はあるからのう。そちらを探ってみることとしようぞ」
突然塩水につけられたような顔をした侍渺茫を無視して他を探しに行く。少なくとも貴様は刀の付喪神なのだから、臭いに怯んでいてどうするというのだ。
「さて、さて、お次は――」
余は屋敷の部屋――おそらくしもべの部屋だろう。その質素な場所の一角の結界を破壊しにかかる。どうやらこれは、壁の向こうに隠しているそれを保護するためのモノのようだが、この程度ではこの余の目はごまかせない。
「さあ、遂に見つけたぞ殺生石!」
バリッと、木製の壁を引きはがし、現れた赤いそれ。
たしか、「らふれしあ」なる異国でごく稀にしかも数日しか咲かない花だったと思う。毒々しい色。何やら喰いついて来そうな、ぽっかりと空いた中央やその死肉のような毒々しい赤色につい眼が行ってしまうが、何より恐ろしいのは――、
「ひぐわぁっっ!!?!?!? またかえェァッッ!!!?!?」
本気で死体が腐ったような。あるいは汲み取り便所のような、この恐ろしいまでにかぐわしい悪臭である。




