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《第百十九話》『白い悪魔』
「鳴狐様、準備が整いましたで候」
どう見ても時代に合わない、和服姿の侍のような姿をした男が、広間の段の上で食事をとる鳴狐へと首を垂れる。
この男の名は侍渺茫。鳴狐のしもべの一体である、刀の妖怪である。
「…………」
「――鳴狐様?」
主の返事が聞こえてこない。不審に思った侍渺茫は、不敬と思いながらも頭をあげ、その様子を確認した。
「――ッ、……ッ! ――ッ!」
「な、え、な、ななな、鳴狐様ッ!?」
侍渺茫は我が目を疑った。なんと、主である狐の大妖怪が、喉元を押さえて真っ青になっているではないか!
「な、鳴狐様、お気を、お気を確かに――!」
侍渺茫はその原因を看破すると、これまた不敬とは思いつつも緊急事態であるために段に上がり、そして――、
その背中を、何度も強めに叩いた。
「っぐ! ――はぁっ、……はぁッ!」
「ご、ご無事ですか鳴狐様――?」
「あ、危なかったのじゃ――よもやこの余が、」
鳴狐は、忌々し気に食事を見た。
「お餅などに喉を詰まらせ死にかけるとは――ッ」




