《第十一話》『つい、やってしまうのだ』
「おい貴様っ! 妾の車に触るでない!」
妾がそう叫んだその先では、二人の警官が今まさに駐禁のステッカーを車に貼っているところだった。声に、男二人が振り向く。
「――? これ、君の車?」
「何故そんな子供を見るような目を向ける。背は低かろうが、ちゃんと免許は持っているぞ」
なお、足は一応届くし、前も見える。免許は――夜貴の働いている機関に無理を言って手に入れたものだが、一応運転も学んだ。
それをこの国家の犬どもは、嘲笑おうというのだろうか?
「――まあ、それならそれで、ここは駐車禁止なので。罰金と、免許の減点を行わせていただきますよ」
「何、ふざけるな! まだそのステッカーを張る前――って、いつの間に貼っていた!?」
どうやら、文句を述べている間に張られてしまったらしい。苛立ちもあるが、それ以上に、マズいという気持ちが妾の奥底から湧き上がる。
今は警官に捕縛されてしまった白い車、あれは「○産・GT○R」という。2007年に作られた車のマイナーチェンジ版で、要するに最新型である。
実はこの車、妾が夜貴に無断で購入したもので、バレた時、つい中古で「150万円」で買ったと嘘をついてしまったが――その、実はこの車、全くの新車で、「1500万円」程したのだ。
時期的には、結婚する際の心機一転として財産の大半を放り捨てた直後の話であり、ローンで買ったこの車がひそかに家計を圧迫している。
つまり、可能な限り妾としては節約したいのであり、ここで捕まるわけにはいかなかった。車の金額に比べれば微々たるモノであっても、払いたくはない。なんで買ったかだと? 惚れたからに決まっているだろう!
――本当は禁止されているが、仕方ない。家計のためだ。
「――よし貴様ら、妾を見ろ」
警官二人を振り向かせ、妾はそいつらの目を見つめる。
「『貴様らは妾の車に見とれていただけであって駐禁を切ろうとしていたのではない。従って、今貼ってしまったステッカーはただ手が滑っただけ――』」
「…………」
二人の警官が、妾の妖術にかかり、心ここにあらずと言った様子でフラフラし始める。
「『今すぐステッカーをはがし、ここでのことを忘れ、己の職務へと戻れ』以上」
「――はい」
妖術にかかり、すっかり操られた警官は、言われた通りのことを行ってパトカーへと乗り込んでいった。正気を取り戻した頃には、ここで素晴らしい車を見たことすら覚えていまい。
こうして、妾は駐禁で捕まることをまぬがれることができ――、
「狂鬼姫さん?」
「わおっひょいッッ!?!?」




