《第百十八話》『迫りくる戦いの気配』
「狂鬼姫様――! いきなりお呼びして申し訳……どうされました?」
「えっと、その――また心に深い傷を負わされちゃって……」
「イ、イヴーッ!?」
零坐さんが呼びつけたために、こうして僕と呉葉は隣の家にいったわけだが――彼が「自分で来ず」に「呼んだ」と言うのはどう言うことなのだろう。いつもの彼なら、むしろこっちの家に足を運びそうなものなのに。
「というか、何故あなたまで来ているのですか?」
「えっ、呉葉に関係あることなら、僕にも関係――」
「これはそう言う次元の話ではありません。特に、あの忌々しき組織の一員であるあなたには――」
どうやら、彼の呉葉に対する見方は変わりはしたものの、依然として僕の存在は認められていないようだった。
それでも、少しは存在を認知されているあたり、最初よりマシになったものだが。
「――いや、構わぬ。夜貴は妾の夫だ。むしろ耳に入れておくべきだ」
「むぅ、呉葉様がそうおっしゃるのであれば――」
零坐さんはどこか不満げでありながらも、渋々と了承してくれたようだった。だが、呉葉も言ったように、僕は彼女の夫なのだから、知らんふりしておくことは出来ない。
「――では、単刀直入に申し上げます。奴らが、九尾の狐一派が、動き始めました」
零坐さんがそう言うと、呉葉の今にも死にそうだった面持が、あっという間に真面目なモノになった。
――九尾の狐って、まさか……あの伝説の大妖狐のこと!?




