《第百十三話》『孫馬鹿、戦慄す』
「ほれ、挨拶しなさい。我らが鬼神、呉葉様だぞ」
そう挨拶を促される、零坐さんの孫娘。日本人とは異なる長い金髪をサイドテールにした、天使のような愛らしさのある女の子。彼女は仏頂面というわけでもない無表情で呉葉を見上げている。
「むぅ、すみませぬ呉葉様。孫娘はどうにも、呉葉様への礼儀も分かっておらぬようで――」
「ははっ、よいよい。それはともかく、綺麗な髪の色だな」
「我が息子が、異邦人と結ばれまして――全くあやつは、何を考えておるのやら」
「ふふっ、その割には、言葉の一つ一つに妾の見たことが無い甘さがにじみ出ておるようだが?」
呉葉の言う通り、孫娘に対する態度の端々に、零坐さんの甘さがにじみ出ているように思えた。彼はどちらかと言うと、体罰を持って躾けるタイプに見える。しかし、この短い間でも、そのでれでれ具合が分かるくらいには頬が緩んでいるし、視線も優しい。
「――きみが、そふのつかえていたという『きょうきき』かね?」
「うむ、その通りだ。――脚色が入りすぎていなければな」
「ふむ――」
目線を合わせるように屈む呉葉にほほえましさを感じながら、僕は変わった喋り方をする子だなと思っていた。
――次の瞬間、事件が起こる。
「ちっさ」
零坐さんの血の気が、さーっと引くという変化が面白恐ろしかった。




