《第百十話》『おっかけ』
「今日、隣の家の前に引っ越しのトラックが止まっているね?」
今日帰ってくる時に見かけた、普段はあまり見ないそれ。世間話的な話題として、僕はそれを上げた。
「つい先日のことだがな、突然お隣さんが引っ越したんだ。今日来ているトラックは、新しい住民の荷物を運んできているようだな」
「ふぅん――? じゃあ、その内挨拶に行ったほうがいいのかな?」
「それは普通向こうがやるべきことだろうに――。まあ、その内引っ越しそばなりタオルなりもってやってくるだろうさ」
ピンポーン
「――と、噂をすればか?」
「いやいや、まだ終えてないから違うと思うけど――」
呉葉はインターホンの親機から受話器を取って相手に応える。最近は大抵カメラ付きだが、うちのは古いのでそんなモノはない。
「新しく、隣に引っ越して者ですが。ご挨拶にまいりました」
「む、それはご丁寧にすまないな。ちょっと待っていてくれ」
呉葉は受話器を置き、玄関へと向かった。それに僕も。まだ引っ越しも完了していないだろうに、もしかすると随分せっかちなヒトなのかもしれない。
そうして、呉葉が扉を開ける。
「先日ぶりです、狂鬼姫様」
「貴様か零坐!?」




