《第百八話》『時を刻む』
「よもや、牙跳羅が修理から帰ってきたばかりでこんなことになろうとわぁ――……」
自宅へとつくなり、orzの形で床に手をつく呉葉。一週間と経っていないのに、これは流石に憐れ過ぎる。
「大体なんだ、何故直前まで渋滞で嵌り動けなくなっておきながら、突然真後ろの車がアクセル全開で突っ込んでくるのだ」
「踏み間違い、だって」
「踏み間違えるくらいなら最初から乗るでない」
「足の上がらないお年寄りに多いみたいだよ? 呉葉も気をつけてね?」
「妾を婆扱いするな!?」
しまった、つい軽口を。というのも、なんかもうここまで来ると笑うしかなく、この世界の流れと言うか、そういうモノに足を取られている予感さえする。
「――全く、折角、夜貴との時間を楽しもうと思ったのに」
「仕方無いよ、うん」
「はぁ――本来なら、向こうで渡すつもりだったのだがなぁ」
呉葉は立ち上がると、ハンドバッグから包み紙に包まれた直方体の物体を取り出した。
「な、なになに?」
「クリスマスプレゼントだ。中身は時計だ」
神に包まれていた箱を開けると、銀色で光を反射するピカピカの時計があった。
「何がよいか悩んだのだが、なかなかいいのが思いつかなくてな――」
「ううん、すっごく嬉しいよ呉葉」
「ふふ、そう言ってくれると、今の沈んだ気分も大分上向きになるな」
こうして、クリスマスの今日は家で二人で過ごすことになった。場所なんて、本当はどこでもよかったのだ。
なぜなら、互いに最も居たい場所が、それぞれの隣なのだから。




