《第百七話》『渋滞あるある』
「…………」
「ははは――まあ、こう言うこともあるよね」
元気いっぱいに走りだした呉葉の車だったが、数分も建たないうちに渋滞に巻き込まれてしまっていた。ものの見事に、行列を構成する者の仲間入りだ。
「はぁ――全く、仕方ない。ああ、仕方ない」
呉葉は勢いが削がれた矢のように気持ちが地に落ちたようだった。まあ、あのまま防鼠運転されて事故を起こすのも困る。
「折角の夜貴の休日だからな。できることならもっと時間を有効に使いたいが」
「呉葉はそう言うけど、僕は嫌じゃないよ?」
「む――?」
「だって、渋滞して並んでる間は、言葉を交わすことは勿論、こうやって触れることだってできるから」
「――ふふっ、まあ確かに、そう考えると渋滞も悪くないように思えるな」
僕はサイドレバーの上に手を置く呉葉の手に、僕は手を重ねた。すると彼女は、掌を翻して僕と指を絡めてくる。
その手触りは何とも心地よく、そして、彼女の存在を主張していた。かつて畏れられ、神とさえ言われていた呉葉だが、今は一個人として、この場にいる。
そんな彼女を、今僕が独占しているのだ。愛しく想う者として、これほどうれしいことはな――、
ドガシャッ!
「――!?」
「にゅおっ!?」
――などと言うことを考えていたら、後ろからの衝撃がそんな時間を邪魔してくれた。なんでいつもこうなんですか!?




