《第九十九話》『悪戯の遊』
「ほら、遊! 二人にちゃんと謝るんだ!」
「…………」
狼山先輩に謝らせられようとする遊ちゃん。その内容とは、勿論僕達の頭からエリンギやらシイタケやらが生えてきた事件についてである。
「ま、まあまあ、僕達、別にそんなに怒ってないですし――」
「そうだよ。あんまり無理やりと言うのも、ちょっとかわいそうじゃないかい?」
「いーや! 流石に今日という今日は謝ってもらう!」
狼山先輩は、怒り心頭と言った様子で遊ちゃんの頭を上から押さえつけた。だが、遊ちゃんはいつもの無表情で、しかしそれに必死に抗っている。
「だいたい、こいつはいつも悪戯やらかしてそのままなんだ」
「いつも――?」
「とりあえず、ディアが気になってる男の前でバナナの皮踏んで転んだのもこいつのせい、」
「ちょ、はぁ!?」
「この間夜貴のマグカップに油塗りたくってつかめなくしたのもこいつだし、」
「あ、あれ、そうだったんだ――」
「所長の毛生え薬を脱毛剤と入れ替えたのもこいつだ!」
「ええっ!? そんなの初耳――っ」
事務所の奥から、絶望に打ちひしがれた声が聞こえたけど、あまりにも悲惨なのでとりあえずスルーしよう。
「大体の異変は、こいつのせいなんだ! さあ、遊! 今日と言う今日は――っ!」
「ん――」
「っ、あ! おい、逃げる気か!?」
するりと狼山先輩の手から抜け出した遊ちゃん。そうしてそのまま、突然彼女はびしっと狼山先輩を指さすと――、
「マイタケ」
とつぶやいた。
「は?」
その直後、狼山先輩の頭頂部から突然立派なマイタケが、それはもう「にょっ」というあからさまな擬音が聞こえてきそうな勢いで生えてきたのは、言うまでもない――。




