プロローグ
「……ん………ここは?」
目を開くと、そこには見たこともないような世界が存在していた。
見渡せる限りでは、自分を囲むように深い森が広がっている。今は、まだ夜中なのか辺りは暗いが、何故か鮮明に見えている。
……一体此処は何処なのだろう?
記憶を整理してみよう。
朝ちゃんと起きて仕事に行って、帰る途中で前から誰かが走ってきて…………っ!
「そうだ、走ってきた奴が握っていたナイフで刺してきたんだ!」
その時の事はすぐに思い出すことが出来た。が、違和感を感じた。
「でも、あいつの動きはど素人だったし、避けて取り押さえた後に警察呼んでたはず。」
その後、警察が駆けつけて来たけど、あの時何か叫んでいたような?
「あの時、警察は「避けろ、後ろだ!」と叫んでいて、少し遅れて背中に衝撃がきてた。背中がジンジン熱くなって、振り向いたら人が……居て……っ‼︎」
後ろに居た人の手にはナイフが握られていて、ナイフは紅く染まり光を反射してた。でも、ナイフ持ってる奴は取り押さえていたはずだ。
それはつまり………
「もう一人……居た?
そして、そいつに刺されて確かに僕は死んだはずだ。でも、何故生きてこんな場所に居る?」
ふと辺りを見渡すと、霧がかかってきた。
この場所は開けているし、朝になるまで動くのは控えよう。
ガサガサッ
「っ⁉︎」
数メートル前の茂みが揺れ、身構える。
ガサガサ……バッ!
「おい君!君みたいな女の子がこんなところで何してる!此処はミストフォレストだぞ、死にたいのか‼︎」
茂みから飛び出してきたのは、
弓を持ち、金髪と青い瞳を持った男だった。ん?耳が尖っているけど、どこかの部族か?
……って、ん⁉︎女の子?この場には僕と男しか居ないし、男は僕を責める様に見つめている。僕のことか⁉︎一応二十四歳の男で、未婚だったんだけど。とにかく、僕は男だって説明しとくか。
「僕は男です。それと、ミストフォレストって地球の何処ですか?」
「は?君が男?いやいや、見るからに女の子じゃないか。それに、地球ってどこだい?この国は獣人と亜人の国、ランガルドだよ?」
は?地球じゃない?いや、どこかの部族なら地球を知らないのも分かる。けど、獣人と亜人?そんなのは、フィクションの世界だけだろ?
いや、僕は死んだはずなのに生きているし、国名は他に聞いてみよう。
それに、僕は大変な事に気が付いた。
………声が女の子みたく高い声になっている。それに、手足も短く、そして細くなっていた。
他にも違和感を感じる。目線がいつもより低いので身長が縮んだんだろう。髪も腰まで伸びているし、軽く触った感じ男の象徴も無い。
違和感の一番の原因が、頭の上と尾てい骨の辺りだ。耳があるはずの場所には耳が無く、頭の上を触るとフサフサとした毛の生えた…それこそ動物の様な…尖った耳があった。
どうしてそれが耳と分かったかって?それはもちろん、音がその部分から頭に響いて聞こえてくるからだ。
尾てい骨の辺りも触ると、フサフサと毛が生えた…これまた動物の様に…立派な尻尾がある。耳も尻尾も触るとくすぐったかったが、触り心地は最っ高だった!そして、耳はピクピク動かせて、尻尾も自由に動かせられる。ちなみに、毛色はコバルトブルーだ。
どうやら僕は、異世界に獣人として転生したようだ。
けど、どうしてこんなに冷静なんだろうか?元々、佐藤 佑月(日本での名前)だった時、パニックに陥ったとしても頭は冷静に物事を考え・判断出来た。
にしても、冷静すぎないか?パニクり過ぎて、一周回って逆に冷静になったとか?うん、そうしよう、きっとそうだと信じよう。
「おーい、ぼーっとして大丈夫か?とにかく、ここに居たら危険だ。
君は、見たところ獣人の様だが村は何処だ?折角だし、連れて行ってやるよ。
あ、君名前は?俺はエルフ族の ドムトだ。」
おっと、思考に集中し過ぎたか。ふーん、エルフのドムトさんか。よし、覚えた。そんで、自分の名前か……………うわっ⁉︎
これは、この身体の記憶かな?
なるほど、僕は十歳の女の子で、名前はレティナ・ルンベルク。獣亜一体の国ランガルドの南に位置するルンベルク候爵領のユトって都市に住んでいて、両親と十四の姉がいる……と。
今まで結構お淑やかな性格だったっぽいな。
よし!生まれ変わったからにはこの娘と共に生きよう!そして、もっとお淑やかな女の子になろう。
我ながらもう順応しちゃってるし。
まぁ、いいか!ラノベとかは結構読んでたし、こういうのには憧れがあったしね!
「ありがとうございます。では、ユトに連れて行ってもらえますか?
そして、申し遅れました。私の名前はレティナ・ルンベルクと申します」
「ユトはさっき行って来たから大丈夫だよ。って、レティナ・ルンベルク⁉︎ルンベルク候爵様の次女の子じゃないか⁉︎
レティナ様、これまで無礼な態度を取ってしまい、もも申し分けありません!」
そうだった〜‼︎僕、候爵の娘だった!
「あぁ、気にしないでください。 それと、様は要りません。どうぞレティナとお呼びくださいな」
「い、いいえ候爵様のご息女を呼び捨てになど出来ません!」
えぇ〜!でも、様って言われてもなんかむず痒いしなぁ。うーむ、我慢するしかないか。
あ、そうそう。この世界はウィルナグといって、地球ではございません。そして、今言われたように僕は候爵の娘で、貴族だ。貴族には爵位がある。
王族は例外無く一番上で、次に公爵・候爵・伯爵・子爵・男爵・騎士爵と分かれている。
そして、私の父は候爵なので三番目に偉い、というわけなのです。
「それなら仕方ありません。時間は空いていますか?
ドムトさん、態々ここを通るということは用事があるのではありませんか?」
「いいえ、ユトで仕事を済ませた帰りでしたが、明日を含め三日は暇なので大丈夫です!ここからすぐの所に馬車を置いてあります。それに乗って、すぐに向かいましょう!」
そして、僕とドムトさんは馬車に乗り、ユトへの道を歩んで行った。
初めまして。初心者なので拙い文章だと思いますが、暖かく見守っていただけると嬉しいです。
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