3 ご家族さま いらっしゃい
自分がこれまで生きてきた中で、モテた時期ってあったかなあ?
人生には3回ほど、モテ期があるって誰かが言ってなかったっけ。だとしたら、私に1回くらい、訪れていなかっただろうか……と、考えてみると、ある出来事を思い出す。
あれは高校、2年生だったと思うんだけど、夏に京都の祇園祭へ行ったんだ、友達と一緒に。3人で行ったけど、その内の1人が未知だった気がする。見せ合うのが初めてだったけど、浴衣を着て行ったっけな、ああほんと懐かしい。
だけど折角の祇園祭だったのに、人混みが嫌になってカラオケ大会になっちゃったんだよね、その帰りだった、「まくどなるどん」に寄って海老バーガーを食べた事を覚えてる、そこで男子3名にナンパされた。
私は黙って聞いているだけで喋っていたのは他2人、未知も友達も楽しそうに笑ってた。私は海老バーガーを一番早くに食べてしまって暇だった。男子3名には全く関心がなくて、暇だから追加でチーズバーガ―のはっぴぃセットでも頼んでオマケで付いている玩具で遊んどこうかと壁のメニューを眺めていた。すると男子のひとりが声をかけてきたのだ。
「ピカチョーだね」
私は、びっくりして声のした方を見た。「え、あ、うん」挙動が不審に見えたに違いなかった。
だけど気にする風でもなくて、話しかけた男子はまた聞いてくる。
「好き?」
壁にはっぴぃセットのポスターが貼られていたが、アニメでお馴染みの黄色いネズミ魔物が描かれていて、その玩具がもらえると大きく書かれていた。好きというのは、こいつの事ね。「まあまあ……かな」と私は曖昧に返す。フシギバネとヒトマゲとゼニガメラが好きなんですと言いたかったが言わなかった。ゼニガメラが「みずでっぽう」でヒトマゲの尻尾の火を消してもフシギバネが飛んできて火をつけてくれるんです、ええ、「ふしぎ羽」ですからぴょーん、と飛べるんです、ヒトマゲは「ちょうのうりょく」で人をスプーン曲げの様に曲げるんです、「人曲げ」ですから。
言いたかったが言わなかった。
「ね、この後に2人でどっか行かない?」
声を潜めて聞いてきたそいつ。隣の席に居た未知達にはバレバレだった。声の音量を下げた意味が無い。
「いえ、いいです」
ノーサンキューで拒否をした。
私は浴衣を着ていた所で、未知や友達と比べると質素すぎて華やかではない。ナンパされたのは未知目当てだ、未知は来ている浴衣も黒とピンクを合わせた桜柄でとっても可愛いし、普段から未知と一緒に歩いているとよく男子に声をかけられてしまうのだ、だから、今だってそうなんだと思い込むのは、無理もないのよ。
なのに私が誘われるなんてね、心外だ。対応に困った。
男子3名とお茶しながら、さあお別れだとレジで会計した後で、
……また私は、誘われる。
「じゃあさ、こうしよう」
先ほど私に話しかけてきた男子が提案を持ちかけた。
「今度さ、ミワコ大花火大会があるじゃないか。そこで気が向いたら来てよ、絶対にさ!」
私に向かって言っているのが明らかだった。それは私以外も知っているだろうけど。
彼は必死になって私の「イエス」を待っているかの様だった。あの、「気が向いたら」と「絶対」が矛盾してるんですけど、と言いたかったが言わなかった。何だか自分の方が情けなくなってくる。
私は決してイエスもノーも言わなかったが、お高くとまってるつもりはなかった。だって、怖かったから……。
彼が花火大会に行ったのか、それは私には永遠に不明だ、だって行ってないから。以上。
月と地球と太陽が一直線に並ぶ事はあっても、
触れ合う事はない。
この距離を埋めるものは何。
私は、手を伸ばそうと、右手を上げた。
目の前には、彼が居る。優しく微笑んだ、彼が。かつて、私が恋したと思う人と親友だった人との、子ども。『貴女を助けに――』私と契りを交わすために、はるばる未来からやって来てくれた。
未来は残酷だ。未婚を許さなかった。違反したら、どうなっちゃうのだろう?
どうして未来の私も結婚をしていないのだろうか。もしかして、今の私となんら変わっていないから……? そんな未来は果たしてイエス? それともノー?
離婚はOKなのだから、しちゃえばいいのに。変だ、自分の事なのに他人事みたい。
私の心が激しく揺れる。もうひと押しだ、私の右手が彼の差し出した手に触れる、
その時だった。
けたたましいサイレンが鳴り出した。
ウウー、ウウー、ウウー。
3回ずつ、「ウウー」が繰り出されている。
「な、何!?」
「ヤバ」
私は聞き逃さなかった。「ヤバ?」手は早くに引っこめていて、騒がしい音の出所を探した。土手一帯に響くサイレン、聞いた事が無い。ヤバと言った彼の頭上に、閃光が出現した。
いや、光は空からだ。川面で浮いているUO、未確認物体に光が当たってこっちに浴びせているのだ。「ええぇ?」眩しいので顔を手で隠しながら、光の中から現れた「影」にさらに驚いてしまった。それは――。
「騙されるな! そいつは悪人だ!」
電動らしい自転車に乗って空中からペダルを漕いで来た、という……白いシャツに黒のネクタイ姿の彼、光臣くんだった。「はあぁ!?」驚きを通り越して狂いそうになった。
光臣くんが2人。彼は双子なのか。それとも片方がさらに息子で未来人だとか。息子の息子の息子の息子で、ムスコ。ムスコ・ジャパン。サッカー日本代表選手団員が全員息子。それは頼もしい未来かもしれない。
足がよろけた。体が熱かった。
そんな間に光臣くん2は、自転車に乗ったまま、光臣くん1にタックルをかました。ボキ。骨の砕けるいい音がした。当たったのは背中だ、ヤバと言って背を向けてトンズラしようとした為だ。攻撃を受けて砂利の続く川原に激しく体を打ちつけた。何故逃げる。
「どういう事なの」
倒れて動かない光臣くん1の傍に、無事に華麗に着地を果たした光臣くん2、私は重くなった頭を何とかして活動させながら、訊ねた。息を整えてしばらく黙っていた彼は、自転車を降りながら酷く難しい顔で私ではなく倒れてる彼に視線を投げる。
「愛田ショウキ、不正アクセス禁止法違反、及び詐欺罪で、逮捕する」
は?
「観念しろ!」
光臣くん2が、ええと何、スマホみたいな固形の物を……どこから現れたのか、手に持っていて掲げていた。まるでマジックの様に見えたんですけど。
混乱していると、上空から声がした。「おおい、光臣ー」比較的に呑気な声だった。
「先急ぐなよ、勝手に行動すんな。せっかちはコレだから」
年のいった男性で、こちらも白のYシャツに黒のネクタイ姿だ、袖は腕まくりをしているけれど。中年そうだけど元気にバイクに跨っていた。奥様が乗ってそうなスクーターだ、オフロード車とかアメリカンとか、そんなカッコイイ物ではない。
自転車で降りてきた様に、バイクも空中の光とともに現れた。何この展開は。
鮮やかに着地した後、エンジンを切り(ノーヘルだ!)素早く降りた。
「まったく。テル、もう少し泳がせてから捕まえろって言ったのに。言う事聞かないとこ母さんにそっくりだ。だから離婚したけど」
ぶちぶちと文句を言っていた。「だって、辛抱できなかったんですよ」テル、と呼ばれた光臣くん2号は飄々と答えている。「ど、どういう事?」完全に置いていかれてる私に同情するかの如く、新参者の中年男性は、まず自己紹介をした。
マジックの様に何も持ってなかった手から突如スマホ(仮)を取り出して。
「我々は、こういう者です」
スマホ(仮)の画面を私に見せてくれたが、それにはザ・警察……を意味する呼称が光っていた。桜の大門だ。
「とは言っても、サイバーポリス」
「Gメンだ」
「ええと、お2人はどういう関係? 上司と部下……だけじゃない気がしたけど?」
私の指摘に答えたのは2号。「親子だ」やっぱり。母さん、なんて言ってたから。
「君は……」
中年男性、バイクGメンと今は呼ぶけど、彼は私をじいーっと見つめて挨拶をした。
「綾香さん、だね」
私を見る目は、どこか懐かしく。
「元気そうでよかった。久しぶりだね、覚えてるかな。山崎です」
天照の戸を開けた先を見るよう。
「山崎くん……」
油断したかもしれない。さまざまな事が一挙に訪れて、パニックになってたから、涙が――ひとしずく、頬を伝えて落ちた。
私がその場に座り込んで動けなくなってしまうと、親子2人ともは更に応援を呼んで、犯人? らしき身柄を拘束して、未来? へ帰って行った。その一連のさまを私はぼおーっとしていて見ていただけだったけど。河川敷に何台かのバイクや自転車が集まり、手錠を(そこは未来でも手錠なのかしら)手にかけて、犯人? は確保されて。
未確認物体UOは水面上にロープも無しに引き上げられ、全貌が判明したものの、私はクジラでもマグロでもなく定番の「UFO」の外形をしたそれに、失望した。ただの円盤だわ。もっとお客様の期待に応えよと思った。そしてそれは、犯人? である1号もとい愛田ショウキの所有物である事も判明、酷いのは、そいつの言ってた未来の結婚の法律も出鱈目だった、という事。
つまり私は、結婚詐欺だか分からないけど危うく騙されそうになったらしい。どこかで様子を見ていた本物の息子の光臣くんは、私が騙されそうになっているのを我慢できなくなって自転車に飛び乗って突撃した、というわけだ。
「お金なんて持ってないし。私を騙して何するつもりだったの」
「奴はアレです。個人情報を盗み出して利用して楽しんでる、愉快犯でキチガイで、精神異常者なんです。はー、よかった。あなたが無事で」
個人……はてそのセリフ、どこかで聞いた様な。まあいっか。
山崎輝夫――光臣くんの父親、は、私と光臣くんだけを残して部下や応援を引き連れ、未来にシュシュッと消えて帰ってしまった。撤収ブラボー、超マジックだった。人間消失、思わず拍手した。
それから、私を落ち着かせて自分も休憩をしようと缶コーヒーを買ってきた光臣くんは、私に缶を手渡した後、隣に座って安堵していた。そういえばお金、使えたのかしら、まあいっか。
「事の起こりはひと目ぼれでした」
辺りはのどかな河川の風景だ。鳥も飛んでいる。そんな大田舎じゃないし大きな橋も架かっているし、車も走るし散歩をしている老人や学校帰りの子どもなんかも、そこらじゅうに居る。
え? ひと目ぼれ? 誰が誰に?
「僕は母から聞いてあなたの存在は知ってはいたけど、会った事もないので空想と変わりませんでした。たぶん、だいぶ美化されてんじゃないかなーと思いますが、僕はあなたに興味を持ってた。だから、あなたが失踪したと聞いた時――」
「ちょっと待って。あの犯罪者が言ってた、女性は30歳までに結婚しなければならないとかって法律、全部USOだったわけでしょう? じゃあ、何で私が隠れなきゃいけないわけ。どうして私は居なくなったの。逃げる理由が――」
「落ち着いて。順を追って説明しますから。座って」
気がつけば彼の言う通り、私は興奮して立ち上がっていた。再びに、石の上に座る。
「未来のあなたは成功者。とあるブランドが当たって商業的に成功して、かなりの額を稼いだと思うのですが、それもあって大物作家の目にとまり、ひと晩で一躍有名スター並の脚光を浴びる事になったのです。でもそれのせいじゃない、あなたが失踪した理由は。これは僕の推測ですが……」
真剣な眼差しは、川に注がれていた。
「その大物作家と、婚姻関係の話があったと。スキャンダルですね。僕は実際、先生に確かめました」
警察手帳の代わりになってるスマホ(仮)を出現させ、権限を見せつけた様だった。どんな社会人でも、警察だと言えば渋々従うしかないわね、確かに。
「濁してましたけど、話してくれました。彼女、あなたには作家としての才能がある、その後援者になりたいし、妻として迎えてもいい、と。その話をした直後の失踪でした。独身を貫いていたあなただ、先生の様な著名人が相手では、むげに断れない。結婚が嫌で逃げ出したんじゃないかとか、誰か他に好きな人がいて、とか。結婚は自由ですよ、ええ。世間体を気にしなければ、無理に結婚する事でもないんだ。でも僕は」
顔をしかめる。
「あなたは報道の前では全く姿を見せた事がなかったので、あなたの写真を母に連絡して見せてもらった。知ってますか、人は運命の人が現れた時、『ピピ』っと反応するらしいです」
口元が綻んでいたが、私は見守るだけ。
「その『ピピ』が脳天にきた。写真だけど実物を初めて目にした時に、運命的な『何か』を感じた。それが始まりで、僕は居てもたっても居られなくなった。あなたを見つけて僕があなたを妻に娶る。嘘じゃありません、本当の事です」
話だけなら、疑っただろうけど……。
もはや今の私は、あんなUFO、こんな警察手帳、きっと『TANAKA』サイクルでレンタルか購入してきたか空飛ぶバイクや自転車を散々と見てきて、信じる他ないでしょ、と決めつけていた。
ピピ、っとね……。
「それだけで済まなかった事が起こりました。あの犯罪者。目的は金銭より、おそらく愉快犯でしょう。未来には多いんです。不正アクセス行為の禁止等に関する法律、っていうのが、ええと、平成11年8月13日にできたと思いますが、不正アクセス禁止法ができても、犯罪はなくなるわけではない。あなたの時代では、文書や映像などといったコンテンツのコピーペーストやダウンロード、それが可能な程度だったのかも知れませんが、僕の居る所では、奴の様に、ほぼ完全に本人になりすませる事が可能になったんです……」
なりすまし。不正アクセス禁止法がそもそも出てきたのって、オレオレ詐欺以降だったと思う。ネットワーク上で他人の名前やIDを利用する事で、誰かになりすましてチャットやメール、電話をしたりする。目的は多種多様なんだろうけど、金銭目的か、あるいは私が危うかった様に、からかって楽しんでいるだけなのかもしれない。それとも、ハッカーとか。重要な秘密を入手する為に、とか……。
「顔もそっくりだった。そんな事ができるの、ルパンみたいに」
「この時代にも3Dプリンターぐらいあるでしょう。あれを発展させて民間が使い出したから大変です。どんな物でも発明されるとね、必ず悪用する奴ってのが出てくるんですよ。はは、整形技術者の商売もあがったりだな。まだ法制化できてないのが痛いところ。対応が遅くてイライラしますよ、国は」
もし私が手を取って未来へ行っていたなら、どうなってしまったのだろうか。散々遊ばれてポイッと捨てられてしまうのだろうか。風俗にでも売られてしまったのだろうか。考えるだけで寒気がした。ならなくて本当によかった。
「ありがとう……」
消え入りそうな声で、私は発した。今頃になって、手が震えているの。パニックになってた時と違って、芯から凍りつきそうなほど怖いっていうか……実感、というやつなのかもね。
「綾香さん」
ふいに抱かれる。一瞬たじろいだけど、抵抗しなかった。「怖い……」
私の呟きは、受け入れられた。
「ここは怖くはありません」
彼の腕の中だ。目を閉じて、それを確かめる。体温が心地よかった、泥臭い気もしたけど、もうどうでもいいかって思って――眠りたい。
「うん……」
いつまで、その恰好でいたのか分からないけれど、すごく長い時間そうしていたんじゃないかな、って思う。だって、夕日が沈みかけている。
「綾香さん」
「ん……」
呼ばれて目を覚ますと、また混乱しそうになった。慌てて起きる。私ったら、光臣くんの膝枕で寝てしまっていた様だ。「ご、ごめんなさい」謝るしかなかった。
「いいんです、久しぶりに窮屈な世界から抜け出して、ゆっくりと過ごせましたから」
光臣くんのフォローがありがたかった。仕事で疲れていなかったのかな。なのに私ってば、何で外で堂々と寝ちゃえるのかな。とほほ、情けない。
「もうすぐ迎えが来ます」「え?」「父から連絡がありましてね、父は忙しく、もう業務に戻るので会えませんけど、代わりに、母が来ます」「は……」それって。
「母です。僕の」
言った同時に、川面が光り出した。キラキラと、反射された光が溢れる。夕日も当たって、いっそう美しく見えた。と、思っていたら突然現れた物体。女神ではなくて……。
『はろー』
くぐもった声で、「それ」は手を挙げて私と光臣くんに挨拶した。
「母さん」
「やあ息子よ。来たよー。お待たせ」
まるで泉から湧き出て来た女神にでも扮しようとした、ごっつい宇宙服を着た人だった。ここは宇宙空間ではなくて地球上なのだが。生命維持装置を備えた気密服、船外活動時なんかに着用している船外服だ。
頭まですっぽりと覆われて顔が見えてないんだけど、そのノリ、雰囲気、覚えがある。「未知……」動けなくなった。
「綾香」
それは相手も同じだったみたいで、動かなくなった。
「未知……本当に未知なの?」
「綾香。本当に、綾香?」
「そうだよ。覚えてる?」
「覚えてるよぉ。綾香」「未知」
いつまでも呼びかけていた。信じ合えるまで。でも、せっかちの未知だから行動を起こすのも早いっていうかな。頭を外して顔を見せた。
大人びてはいるけど、高校生の時の顔が、そのまま。確かに未知だった。
「未知ィ!」
「綾香ぁあ!!」
堰を切ってお互いに駆け出し飛びついた。子どもみたいに。あれ、何でこんなに感動してるんだろう。そんなに重要な儀式だったのかしらこれ? 理屈なんかぶっ飛んでいった。
傍で光臣くんが見てるっていうのに、私も未知も、気が済むまでわんわんと泣いた。100年も会えなかった人に会えたみたいなノリだ。私からすれば、たかだか数年会ってないっていう程度の事だったんじゃないだろうか……。
一番星が輝いている。
補足をすると――
不正アクセス行為の禁止等に関する法律、即ち『不正アクセス禁止法』とは、目的が不正アクセス行為の禁止とともに、その罰則及びその再発防止のための、都道府県公安委員会による援助措置等を定め、電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪防止及びアクセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序維持を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与する事である、とされる。これが1条なのね。
本法の処罰対象は「故意犯」。過失犯、未遂犯は対象外、なんだってさ。
「もうそれも古いんだけどねー」
まっきゅシェイクのメロン味をストローで吸い上げながら、未知は言った。
違反した者は、3年以下の懲役、または100万円以下の罰金が課せられる。何人も不正アクセス行為をしてはならないというのが3条らしい。
不正アクセス禁止法の中の、「他人の識別符号」というものが「なりすまし」に当てはまり、例えば、サイトの管理者だと偽って他人にメールやチャットをしたりすれば、禁止法違反になる。他人に誹謗中傷や迷惑メールを送りつけたりしてもこの不正アクセス禁止法のひとつになるんだ。
以前は、チャットくらいの出来事で警察が動いてくれるわけがないという考え方が主だったかもしれないけど、そう、「オレオレ詐欺」以降、法律が変わって、いわゆる振り込め詐欺は他人になりすましているので、「なりすまし」に対する法律ができたっていうわけなのね。
「なりすまし」の罪は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金。
詐欺とは、誰かを騙す事で、つまり「嘘」をつく事、嘘自体がそもそも詐欺に当たるのよ。
調査すれば大抵「なりすまし」の犯人は特定できる。それに、ホームページ改ざん等の被害を受けた場合の措置や、SNS・コミュニティサイトでの注意点まで、警視庁のホームページにちゃんと書いてる。サイバー犯罪に巻き込まれない為に、悪用される可能性があるから自己紹介サイト(プロフィールサイト)でも個人情報や個人が特定できる写真などを掲載するのはやめましょう、イタズラや面白半分の気持ちで掲示板等に悪口や犯行予告等を書き込んではいけない、内容によっては犯罪になる場合があって、社会的責任を自分自身が負わなければならなくなる、ネットの世界は匿名ではない、18歳未満の児童が出会い系サイトを利用することは法律により禁止されている、ついでに言っておくと他人の文章や絵、音楽、キャラクターなどを無断で使用すると著作権侵害になって、無断で漫画のデータ、映画、音楽等をインターネット上にアップロードする行為は犯罪、また、違法にアップロードされたものと知りながら音楽等をダウンロードする行為も違法になる、って事が書いている。ちゃんと。
それから、そもそも、スマホ=スマートフォンは携帯電話とは異なり、パソコンに電話機能がついたものと考える。適切なセキュリティ対策をしなければ、個人情報の流出やウイルス感染の危険性があるのだ。無線LAN経由でのインターネットアクセスも可能、このせいで、無線LAN利用時でもきちんとフィルタリングが動作するよう適切な設定をしなければ、青少年が有害サイトにアクセスできてしまう可能性がある。
インターネットの世界では、「自己責任」「自己防衛」が大原則。インターネットには便利で有益な情報だけがあるとは限らず、何でもすぐに信じたりせずに自分で「本当なのか」「ウソなのか」を考えて善悪の判断ができるようにしなければいけない。
……だってさ。光臣くんの饒舌に未知までが加わって、私は聞き役で頭が重くなってきた。こんな役回りになったのも、偽者の光臣くんに騙されそうになって、それの顛末を聞いた未知が怒って、はい、もう夜の9時前です。私達が居る「まくどなるどん」は、残念ながら24時間営業なのよ、とほほほほ。
「光臣が、まさか綾香にゾッコンラブだとはねぇ。お母さん、複雑だわ」
「いいじゃないか。未来へ行って、親父も呼んで、皆で暮らしたら。問題あります?」
「どうなっても知らないわよぉ、婚姻庁に何言われるやら。手続きも大変じゃない? 何枚要るのか」
「あのー」
私が横から言うまで、2人の話す口と、ポテト特大サイズをぱくぱく食べていく手が止まらない。似た者親子だ。
「私、まだ未来へ行くと決めてませんけど」
置いていかれない様に注意するのが精一杯。思考がついて行けないのだ、早すぎる。
「何か問題でも? あなたの未来は保障します。僕がずっと傍に居ます。必ず幸せにする。今ここで誓ってもいい。指輪が要るなら最高級を用意します。親御さんもというなら――」
「ちょっとちょっと! ストップ・テル! 綾香を見てみなさい、目が死んでる」
テーブルの向かいで私はイスにもたれて、泡は吹いてはないけど未知の言う通りに死体になってた。だらん、ともうどうでもいいよと言わんばかりに身をイスに預けてる。
臆面もなくこんな言葉をスラスラと言ってのけれる彼は最強だ。勝てやしない。未知が居てくれて助かった。心底感謝する。でも。
「ねえ綾香。でもね、正直なとこ、結婚には賛成なのね、私」
とんだ伏兵だった様だ。「未知……」
「本当に、未来に来ない?」
未来の私はどこへ行ってしまったのだろう。
私が未来へ行ってしまったなら、過去の私は、居なくなる。
だから未来に私は居ないんじゃないだろうか……
それで合ってる?
数時間後……。
やっと未来人の2人に解放された私は、家路に。もう夜の11時だ。
こんなに遅くなってしまったから、送って行くって2人は言っていたんだけど。近くまででいい、頭の中を整理したいと強情を張った。さすがに付きあわせて悪いとでも思ってくれたのか、私のささやかな要求を聞き入れてくれた様だった。いや……。
ひょっとしたら、結婚の同意を求めて、私の機嫌をとってくれたのかもしれない。
私は誰と結婚するのよ。光臣くんとじゃないの。未知と結婚するわけではないけど。
どうして重荷に感じているのだろう。光臣くんも未知も、決して悪い人じゃない、むしろ私を助けてくれた恩人だ。感謝しているのに、なのに。
返事は、また、後でいい。
結婚OKなら、あの川へ来て下さい。待ってます。
2人とは、そう約束をして別れた。私に時間を与えてくれたのだ。いつになるかが分からない時間を。
ちなみに私がいつ来ても分かる様に、設定してあるからと教えてくれた。設定って何のだ、と聞きたかったが聞けなかった。きっと未来の道具なんだろう、知りたければドラえもんにでも聞いて。
私が知りたいのはそんな事より、これが愛だとか恋なのかって事。
意気投合したから、これが好きって事なのかなって彼氏ができたけど、直ぐに別れてしまった。愛にまでは発展しなかったのだろうか。残念だわ。
結婚して別れる夫婦、政府は結婚をしなさいと推奨しても、では、離婚は止めないのですか、と聞きたい。離婚を減らさなければ結婚を勧めるなんておかしくない?
離婚によって犠牲となるのが……子ども。あの子達の事は、どう考えているのだろう……。
ああ、頭が痛くなってきた。もう嫌。帰りたい。
もう、未来へ行ってしまおう。やけくそで、行ってしまおう。
きっと早急な2人の事だから、未来へ帰った後に、私を出迎える用意をしているのだわ。家とか買っちゃったりして。花嫁の衣装とか手配しちゃったりして。ははは……。
ブルーな気持ちは一向に消えず、暗い、おぼつかない足取りで家に帰って来た。新鮮でも何でもない、我が家だ。途端、妙に懐かしく思えた。
「ふう……」門を抜けて、玄関の鍵を開けて、ドアを開ける。この時間なら家族はもう寝支度をして寝てるかしらと思ったが、1階にも2階にも、部屋の電気がついたままだった事に首を傾げた。「あ」忘れていた。そうだ、今夜ってパーティじゃないか。
店の売り上げがいいからって男女を集めたパーティ。父が言ってた、私に見合いをさせるつもりで。「しまった」もう遅い。
「おおー、主役がやっと帰ってきたぞおおおー」
大声をあげたのは誰。
「ほおー、あれが綾ちゃんかぁ!?」
あ、綾ちゃん?
「まあ~、可愛いいぃ~」
ど、どうも。
玄関で複数の人に囲まれた。いや、
「どこ行ってたんだ、待ちくたびれたぞおぉ、綾香あぁぁああ」
「今夜は徹して呑み尽くせって言ってた所だったのにー」
「まあ早く上がんなさいっ、ほれ、早くだ」
「ひいー」
父も居る、母も居る、知らない人もたくさん居る。「姉ちゃん、酒飲む?」とコップを持ってきたのは我が弟。こらっ、未成年は早く寝なさいよっての。しかも顔が赤いし、まさかまさか。お姉ちゃん、どこー!?
揉みくちゃにされながら、リビングへ。豪勢な鯛料理や酒、酒、酒。ある意味で戦場と化していた。酒臭い!
「ちょ、ちょっと待って。トイレ行って来る!」
私は頭がガンガンと鐘でも打ちつけているのかと言いたくなるほど痛くなってきて、つい逃げ出そうと口に出た。「行ってらさーい」誰かが背中越しに言っている。
喧騒から逃れて廊下をぱたぱたと早足で歩き、トイレの手前まで来たけど、ちょうど誰かが向かいから来た様で、私はぶつかりそうになってしまった。「あ、ごめんなさい……」ふらふらになりながら顔を上げる。「あ、どうも」長身の男だった。
ピピ。
ん?
気のせいか、軽く全身に電流が走ったかと思った。「こんばんは、初めまして……」
男は私を見下ろして、優しく微笑みかけた。私の胸がそれを見て高鳴る。
「僕は、愛田みつをの子どもです」
男は言った。何かが始まる。
出会いは、突然にやって来る。彼の様に。
だけど続きは、わからない。
私が、どうなろうと。
私が、タマコブランドで成功して億万長者になったとしても。
私が、『さらば、自由』というSF小説で大物作家に目をつけられたとしても、
どんな未来だったとしても、きっときっと、それは楽しい。
さあ、行こう。
《END》
さあ、不倫です(SF)
毒了、ありがとうございました。
本作は『あなたのSFコンテスト』企画作品です。サイトはこちら→http://yoursf.tiyogami.com/
※企画が終了しましたので、作品への感想はここ(小説サイト)の方へ。
※過去に企画で書いた、SF自作小説が多数あります。よろしければ、どうぞ(古い順)↓
■さんすうリズム(中編/2008年)
■シュセンド(中編/2009年)
■リターン・トゥ・マイライフ(中編/2010年)
■BANZAI☆ロボット(掌編/2010年)
■耳鳴り(短編/2011年)
■SFのとーり!(短編/2011年)
■アドルフストロイカ(長編/2012年※連載中ごめんなさいorz)
こちらのリンクから飛んで下さい→http://ncode.syosetu.com/s0384a/
■作者とおかしなSFストーリー
http://ncode.syosetu.com/n8018cg/
※続編、ではないですが、おまけみたいな話で『作者とおかしな』シリーズ4となります。是非どうぞ(SF企画作品の第2弾めでもあります)。
あゆまんじゅう。総合自作小説マイブログ
→http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/
お茶龍 感想まとめブログ
→http://otyaryuroom.jugem.jp/
「小さな(スモール)・自由」「さらば・自由」「さあ・不倫です」
3つの「自由」展開だったんですけど(挿絵も成長 笑)、
やっぱり「さらば・・」のSFでいいかな。決。
ひとり言 終了。ではまた