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1 合コンさん いらっしゃい


挿絵(By みてみん)

 あの頃って、私の社会なんかちっぽけな世界だった。

 お小遣いの範囲で好きな物が買えたし、親も姉弟も互いに干渉しないからケンカしないし、ちょっとくらいワガママを言ったって周りが反発する事無いし。

 小さな「自由」だった。

 でも社会に出てからは違うよね、敬語は使わないといけないし、行儀よくしないと注意されるし、仕事でミスすればその場所で居づらくなっちゃう……学校から出立ての若者が、就職して、新人になって、気分一新で襟を正しくしていても、はじめの期待通りになんていくはずない、躓いてばかりの毎日。下手すりゃ病気になっちゃうんだわ。

 ――なんていう事を、極々、「普通」に思ってたんだけど。現在は、4月になれば26歳。結婚願望のあった人はもう主婦業してるし、子どもがいて育児に追われてたりするし、そうでない人は仕事で落ち着いて、我が身の今後を考えてたりしてる、いや、「ぼちぼちと」悠長に考えてたりしてる。

 もうすぐ30代かあ、早いような遅いような。私って、これからどうなるんだろ。

 漠然と不安が近づいてくる。きっとそうだ、私には自分の未来が見えていない。

 これを誰かが、引っ張っていってくれたら楽なんだけどな――なんて。

「綾香さん。今、空いてる?」

 すっかり居慣れたオフィスで声を掛けたのは、ひとつ先輩の西門さんだ。春先で、桜色のスーツを着ていて、まるでもう雛祭りがここにやって来たみたいに可愛らしい感じがする。「はい、いいですけど」私が愛想少なく返事をすると、西門さんは仄かにつけた完璧な化粧を乱す事なく笑顔で続けて言った。「今度ね、社で、合コンがあるの」私の思考回路が鈍くなる。

「合コン……ですか」

 それを言うのが精一杯。会社に勤務して4年ほど。今まで、恐ろしいくらいに異性交遊関係な話なんてこの職場には無かった。それが何でだ。私の目がそう言っていた。そもそも、この偏屈な会社は「男女交際禁止」じゃないか。きちんと真面目に守ってる。

「今年から方針が変わる、って噂があったけど」

 西門さんは咳払いをひとつ。疑問は無視されて話は続いた。

「ともかく、未婚の男女を呼んでパーティーしよう、という事になったのね。部長達が幹事になって」「部長が?」「そう」「何でまた」「気まぐれじゃないの~」

 一番のカタブツだったはずの部長の名前が挙がったので、私はびっくりしてしまった。方針が変わったって……変えようと動き出したのは誰なの。

「世は、出産ブーム、って事なんじゃないの」

 そうだっけ……? 頭を捻る。

「でね、私も一応は参加するけど、私は彼氏がいるから、行ったって幹事の手伝いよ。メインは独身男女の出会いで、私はその斡旋ってわけ。どう? 参加は自由って事にはなってるんだけど、できれば数を稼ぎたいから暇なら来てほしいのね」

「はあ……いいですけど」

 大して断る理由が無かった。未婚、彼氏いないフリー、おろか好きな人さえいないという。せめてアイドル相手に憧れでもいればいいのにねえ。溜息が出そうになった。

「そう? やった、これで1名は確保。ほら、ここって堅い職場でしょう? 事務だって、浮きだった話がまるで無いんだものねえ。ちょっと異常よねーって思う。助かったわ、ありがとう」

 御礼を言われて私は何だか変な気分になった。ここでOLしているのは、西門さんでも誰のせいでもないんだけど。ましてや、真面目に勤務していて何処が悪いのかが謎。

 要は、真面目すぎ、って事かな。外国人がよく日本人に対して持ってるイメージだ。


 かくして、私は次週の日曜日に、去年買った真っ黒のスーツを着て、髪もありふれた小顔カットにパーマをかけただけの、地味な格好で、京都の料亭の暖簾のれんをくぐった。

 料亭、旅館なんだけど老舗で、京都の市中にありながら東には南禅寺、西に平安神宮があり、古の京文化が現在も息づく東山の麗に佇んでいる、とかで。平安神宮、無燐庵、円山公園などを作庭した、日本を代表する近代造園家「植治」こと小川治兵衛による庭園がある。回遊式とか、専門は分からないけど庭が四季折々で美しいのだろうという事は分かった。何も庭を見に来たのではないのだから。

 かと言って、合コンも乗り気ではないけどね……。

「綾香さん。こっちよ」

 西門さんの声が私を振り向かせた。旅館に来たものの、知人が見当たらなくて困ってた所だった。よく玄関を見れば、会社の名前が書いてあったのに。

「すみません」

 軽く会釈した。

「場所が分からなかったんでしょう。何で来たの? タクシー?」

「いえ、近くまでバスで来て歩いてきたんです。地下鉄でもよかったかなあ」

「そうね。市内は渋滞するから、電車の方がいいわよ。こっち」

 玄関を通って、私は西門さんについて行った。通されたのが宴会場で、奥には部長、続いて男女が交互にお座敷に並んで座っているという。誰が考えたのかこのセッティング。

「まだ来ていない人がいるけど、先に召し上がっていてね。乾杯は全員が揃ってからするみたいだし」

 何に乾杯するのだろうかと思ったが、聞かずに私は詰めて椅子式の座布団の上に座った。片隣りに座っていたのは、よく営業部長の補佐でいる那岐なぎ君だった。

「こんにちは」

「あ、こんにちは。どうも」

 屈託のない顔で白い歯を見せた。小さめの目が私を見ている。挨拶をした後、バッグを正座した前に置いて、目の前の料理を見つめた。和テーブルに並んだそれは、京料理。上品な香りがプンプンするわ。食べていいかしら。

「あ、お酒どうですか。美味しいですよ」

「酒?」

 徳利とっくりを見る。御猪口おちょこも置いてあり、これの事かしらと手に取った。「京都の地酒なんですって、甘口で飲みやすいから女酒とも言われてるらしいです。料理も美味いですよ、やはり京はダシが上ですね」と那岐君は箸で川魚の焼身を摘んで美味しそうに食べていた。

 おかしな会社だ。パーティーとか言っておきながら、集合場所は京都のお座敷。洋じゃなくて和じゃないのよ。ま、集合場所を聞かなかったなら、ドレスなんか着ちゃったりして、とんだミスを犯す所だっただろうけどね。幸い、そんな失態を犯す人はいなかったみたいね。

 勧められた酒を飲み、次々と来る客を見ていた。私の次に横に座ったのは、会社の休憩所で会った事のある、ええと、沖田君だったかな、営業支部の方だったけど企画係で地味を絵に描いた様な大人しい人だった。

 簡単に挨拶だけ済ますと、後は黙々と料理を食べてるだけだった。


 はっきりいって、つまんない。


 それがこの時の、私の感想だった。話しかけても続かない、足はしびれて、ずっと息苦しい。これなら、家で半纏はんてんでも着て炬燵こたつでポケモンでもしてる方がいい。

 私は泣きそうになった……。


「はあ~……」

 とうとう、我慢ができなくなって座敷から抜け出した。料理は平らげたけど。外に出るのは寒いから嫌だなあと思ったけど、あの窮屈な空間に居るよりはマシだわとスリッパで長廊下に出た。何処かに有名そうな庭園があるって聞いたから、そこに行ってみようかな。

 なんて考えた時に、後ろから声を掛けられた。

「綾香さん、ですか」

 聞き覚えのない声が、私を振り向かせる。「はい?」

 そこに居たのは男性だった。まだ若い、というか私と同じ年ぐらい。

 黒のハイネック、ジーパンという出で立ちだったけど。誰だ?

「初めまして。山崎といいます」

 彼は山崎と名乗った。と同時に、私に光が差し込んでくる。


「山崎くん……?」


 天照あまてらすが戸を開けた様に、衝撃だった。




 さかのぼる事、高校時代。

 私には、ファッションセンス抜群の親友がいた。今は、どうしてるのか不明だけど。

「まぁたそんなダサい事してるっ」

 膝までのプリーツスカートを腰の所で折り曲げて、短くしている。上の白のブラウスは胸までボタンを外し、黒のニット系ベストで胸を隠してる感じだ。切り揃えられた髪の毛は、清純さをアピールか。鼻の高さがクレオパトラを連想させる。

 彼女の名前は、未知みち

 よく喋るよく笑う、話題のネタが口に尽きない子だった。

「白のハイソックスなんてダサいダサいダサい! 黒にしなさいよ綾香!」

 叫んでいる相手は私だ。昇降口で会って、開口一番にこれだった。私は「はあ?」と寝ぼけた顔で未知を見た。バッチリと全身をキメている彼女に対し、私はといえば校則に準じた長さの指定スカートを履き、白のブラウスの上にはグレーのカーディガンを羽織り、勿論シャツのボタンは上まできっちりと留め、学校指定のカバンをショルダーにして肩から提げていた。

 ご指摘通り、白のハイソックスを履いている。秋とはいえ、寒いから。

「せめてルーズソックスにしなさいよ。その方が可愛いじゃない」

「何でもいいのよ未知。私は」

 上履きに足を押入れながら、手を振った。横で未知のほっぺたが膨れているのを想像する。服装チェックが済むと、二人で教室に行く前にする事がある。「あれ、ヒップホップかなあ」「どれどれ?」

 私が窓越しで指さす方には、中庭を挟んで体育館が見えるのだけど、その前に広い場所があって、そこに男子数名がダンスの練習を行っている。

「今日は3人だね。スプレー缶持ってるけど、パフォーマンス?」

「大会で使うんでないの。だから」

 こうやって、眺めるのが日課。私と未知は部活動してないから朝寝坊もできるけど、朝の練習がある人は忙しい。教室が3階だから、階段まで校舎の1階を歩く。ダンス部の練習が見れるわけだが、時折音楽が流れてた事もあって、目を引いたのが始まり。私と未知は興味を持って、朝はこれを眺める様になったというわけだ。

 まあ、実を言うと、眺めるにも私には「理由」があったけどね。

「ほらさ、いるいる」

 未知が言った瞬間、どきりと心臓が音を立てた。それから顔が熱くなる。

「山崎くんだよ」

 わざわざ言うなんて、からかってるんだろうかと叫びたくなるのを抑えて私は前を見た。未知の言う通り、青のTシャツに学校指定のジャージを着ていた彼がいた。山崎輝夫やまざきてるお、高校2年生。何処にでもいるフッツ―(普通)のやんちゃな男子ですとも。ええ。

「さ、行きましょう未知。予鈴が鳴るよ」

 私は一瞥して、そそくさと立ち去ろうとした。

「ええ~、まだ時間あるよぉ」

「あらやだ。私、日直だったわ。急がないと」

「何で綾香ってそうなのよぉ」

 私は愚痴る未知を放って先に行く。ここまでが、「日課」なのであった。ふん。


 素直じゃない。

 ええ、それは分かってますとも。ええ。


 拗ねてるわけではないのだけど、どうにも受け入れられない。分かりますかこの気持ちと聞いてみたくなる誰かに。体が熱い。


 初めて見た時から、何日が経っただろうか。駆け馬が駆け去るが如く、あっと言う間にバレンタインも過ぎて、これから春休みの事でも考えようとした時期ときだ。私と未知はこのまま高校3年生になる。山崎くんもだ。クラスが違うけど、学年が一緒に上がる。同じクラスになれたらいいのにと淡い希望をも抱いていた時だ。帰り道、自転車を降りて押しながら、未知から聞いたのが。

 告白――だった。

 私、山崎くんの事、好きになったの。

と、さりげなく会話に滑り込ませた様に、未知は言ったのだ。

「え……」

 私はしばらく、唖然とした。自転車を押す手は止めていない。歩きながら、未知が言った事を忘れない様にするみたいに、言葉は頭の中で繰り返した。好きに「なった」? と言った。好き「だった」わけではない、その言い方だと、私が山崎くんの事を好きだと知っていて、それから好きになったという事になる。

 これってどうなの。私が、山崎くんの事を好きになる様に仕向けたとでもいうの。そんなはずない。だって、だって私が山崎くんの事――


 未知とはそれからどうしたのか、覚えていない。

 方向が違うからと道で別れた後、泣いたかもしれない。あの頃私は、若かった。なのに私は、山崎くんとは縁が無かった。クラスが分かれて、朝の練習も見なくなった。

 高校を卒業した後、未知も山崎くんも大学に進学したと聞いた。でもそれっきり。私はアルバイトをしながら短大に行って、悪くはない会社に就職して、小説でも暇つぶしに書きながら、ひとりで楽しんでいる。普通でしょ。

 悲しいくらい、普通でしょ……。

「ん?」

 私は気がついた。「現在」の「私」だ。スラリと細い体型の「彼」と向き合った。

「『初めまして』……? どゆ事」

 料亭の庭園は長廊下の先だ。庭園には悪いけど、もはや毛先ほどの興味も無い。

 山崎です、と挨拶してきた彼は「初めまして」と言った。彼が山崎くんだったなら、初めましてではないじゃないか。

「はあ、どうも。ええと」

 さらに疑問が生じた。私の名前を呼んだ、何故知っているの? どうにも腑に落ちない顔をしていると、彼はニッコリと笑って言ったのだ。

「僕は、山崎輝夫と未知の子どもです」

 どこをどう取ったらいいのだろうか。「は?」凄く嫌な顔をしたと思う。

 意味が分からなかった。


 彼の言う事によると。

 彼は2人の息子の、山崎光臣。光は「てる」と読み、「てるおみ」という。何だそのキラキラネームは、と言いたくなるのを堪えて聞いていると、彼は未来から来たのだと言い出す始末。未来ぃ!?

 何で来たのかと問うと、タイムマシンで、いやそうでなくて来た理由は、と問うと、嫁を探しに、ときた。聞けば聞くほど混乱していく。私は「き、休憩をください……」と彼に懇願した。それで、場所をロビーへと移したのだった。

「落ち着いた?」

 彼は、自販機で缶コーヒーを買ってきて、私の手元に渡してくれた。「あ、ありがとう……」元気のない返事をした。「無理もないと思うけど……」と、申し訳なさそうに彼は言った。「次々と言われても、追いつけなくて……」頭が重かった。

「のんびりさんだよね」

 のん?

「母から聞いていた通り。思い立ったらすぐ行動する母と違って、あなたはいつも遅すぎるって。だからチャンスも逃がすんだよ、って。母は今や世界中を駆け回るデザイナーになって僕ひとりを育ててくれたけど、あなたの事はいつも心配そうに喋ってましたよ。結婚はしないのかなあとか」

「余計なお世話じゃ」

 私はカーッと顔が熱くなった。何て事を吹き込んでいるのだ未知。

「あなた、今は何歳」

「31です」

「は!? 私より年上!?」

「そういう事になりますね。小さい事です」

「今起きてる事が大きいんですけど」

 これでは漫才だ。私は缶のプルタブを開けてコーヒーを一気飲みしたかったけど、熱いのでできなかった。

「母は父、山崎輝夫と在学中に結婚して、僕が生まれました。2人はお互いに仕事が忙しくて、離婚してしまいましたが交流はありました。小さい頃は母側に引き取られてましたが、自立すると父の方で仕事をする様になって、もう31なんで、そろそろお前も嫁はどうだ、好きな人とか気になる人とかいないのかって話になって」

 仲が良かったのにまるきり音沙汰なしの未知。知らなかった事が次々と明らかになって、私を唸らせた。まず、2人が在学中に付き合ってた事から……。

「僕がいる、と答えると、父が目の色変えて迫ってきちゃって」

 私の事は未知は何処でどの様に知っていたのだろうか。未婚だなんて誰にも言ってないと思うんだけど。未来の私は何処にいる。

「母はよく綾香さんの事を懐かしそうに言ってました。僕も、綾香という人に興味を持っていました。どんな人なんだろう、会ってみたいなって。でも未来のあなたとは会う機会がなかった。海外にいたので、成長してから一度渡日して訪れてみようかとしてたんですが、住んでいた場所には居なくて、途方に暮れました。それならと、タイムマシンをレンタルして、過去のあなたになら簡単に会えるだろうと踏んだのです」

 タイムマシンのレンタル。いつ出来るのよと聞きたかったが。未来で探すより過去へ行った方が早いだなんて、未知らしい回転の速い頭だ、さすが息子。

「あなたの写真を母が持ってましたから借りて、あなたが未来で行方不明になる前に着いて、今日の足取りを追ってきたというわけです」

 そこで彼は話を切った。私から顔を背けて、ひと呼吸した。彼が、私に会いに来るまでに一体どのくらいの時間を費やしたのかはしれない。未来人が過去に、軽率な行動によって影響を与えるかもしれないリスクは十分に大きいと思うのに、それをクリアして今ここにいるのかと問いたい。

 聞きたい事だらけだ。多すぎて混乱が混乱を呼びそう。だから聞くのは無し。

「信じられないわ」

 当然と、言い放った。

「無理ですか」

 何が無理だ。「僕が未来から来たと証明が必要ですか」その通り。ドラえもんがドラえもんであると証明する為に四次元ポケットがあるのだ。ポケットの中にはビスケットではなく未来の秘密道具が入ってる。何処が秘密だ。お披露目しまくっているくせに。

「タイムマシンは何処よ」

「ここにはありません。業者に渡しました」

「帰りはどうする」

「呼び出します。『TANAKA』サイクルへ」

「サイクル? 自転車?」

「もとはそうだったみたいですが。詳しくはホームページまで」

「アドレス知らないし」

「ああ、ネットは国有化されましてね。国が全部管理してます」

 何のこっちゃか話が見えない。私も対応がいい加減になってきたので、話を変えた。

「もういいわ。あなたが未来人(仮)だったとしても。私には関係ない」

 ぷい、と、そっぽを向いた。頑なに拒否を選んだ。

「何言ってるんですか。関係大ありです」

「ん?」

 彼は真顔で言った。「花嫁を探しにきたのだと」冗談では済まさなかった。


 ちょっと待って。

 花嫁って、私?


「ザッツライト」

 その通り。

 彼はウインクして私の反応を誘った。まだ何も言ってないのに。

「あなたの表情が読めます。そう、僕が探していたのはあなただ。苦労して辿り着きました。ご褒美としてもいいでしょう。それで」

 横に座ってた彼は立ち上がり、私を見下ろして、屈んで、まるで王子の様に振舞った……。私の手を取りたさそうに、手を差し出すのだ。「やめて」と私は熱くなっていく頬を隠したがった。「迎えにきたんです。婚姻庁の許可を取って」婚姻庁!?

 くらくらする頭を抱えた。「苦しい……」

「どうか僕と一緒になって下さい」

 ここまでは彼の順調だ。彼のペースで進行している。


「冗談じゃないわ!」


 ぶち破りたくて、全身からエネルギーを出した。叫びとともに。

 この人は未来人なんかじゃない、きっと個人情報を盗み出して利用して楽しんでる、愉快犯でキチガイで、精神異常者なんだわ。絶対に騙されないわ。ああ神様。

「待って!」

 鮮やかに立ち去ろうと素早く彼の脇をすり抜けようとした。そこからでないと帰れない。だが彼は私の片腕を掴み、真剣な眼差しで、言った。

「後で来てくれる。君の実家のすぐ近くに川があったはずだ。そこでOKなら、来てほしい。僕はそこで待っているけど、来なかったら……」

 どうするつもりだ。帰るのか。

「レンタル期限があるから、帰る。とりあえず」

 期限かい。こっちはご「機嫌」、斜め真っ直ぐだわ。

「勝手にしなさいよ!」

 ほらもう止まらない。見境なく怒り狂ってる。何で怒っているんだ、私。


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