第1章2話 カシズ村
カシズ村。人口は約50人の小さい村。葡萄栽培が盛んで、葡萄から作ったワインは、この村の特産品。王や大貴族の支配者層からも愛される至高の逸品。村にある施設は、診療所と交易処のみ。以上、この世界の歩き方、カシズ村編より。
「はぁ、やっと着いた・・・」
山を登り、谷を下り、歩き続けること、5日間。やっとの思いで、カシズ村に到着した。
村の第一印象は、のどかで平和。争い等とは無縁の世界。そんな印象を受けた。
とりあえず、村に入ってみる。旅行者風な格好で村に入るも、怪しまれる気配はない。排他的な村や町が多い今の世の中で、カシズ村は珍しい場所だ。
「あら、旅人さん?」
村のオバサンが声をかけて来た。大きな樽を担いでいる。
「あ、はい。さっきここに着いたばかりでして」
「そう。こんな僻地へ大変だったでしょう。ゆっくりしていって、ちょうだいね。何も無い場所だけど」
オバサンは軽く会釈をすると、また樽を担いで行った。村の雰囲気どころか、村人まで温和な雰囲気だ。ここに彼女が居着いてしまうのも、分かる気がする。
「おや、旅の方ですかな?」
しばらく村を見て回っていると、また声をかけられた。今度は杖をついた老人だ。
「あ、はい。植物学者でして。勉学の為に、さっきここに着いたばかりです」
どう答えるかは、既に決まっている。だいたい、学者です。と答えておけば、怪しまれずに済むからだ。
「学者さんでしたか。申し遅れました。私はこの村の村長をしています、ロウシュと申します」
「これは村長様ですか。私はセツナといいます」
「セツナ殿ですね。セツナ殿は植物学者ということですが、いつまで此方に滞在予定ですか?」
「10日程です」
「長いですな。宿の当てはあるのですかな?」
「いえ、恥ずかしながら、ありません」
「ならば、こちらで手配させてもらえませんかな。学者さんとなれば、大歓迎です」
思いかけず、宿の確保ができそうだ。旅をする者にとって宿の確保は、自分の命を守ることに繋がる。最悪、野宿も覚悟していたが、村長の申し出に応えることにする。
「では、お言葉に甘えて」
「旅の方には、いつも先生の診療所を宿として提供しております。私は先生に説明してきますので、セツナ殿はここでお待ち下さい」
「先生・・・」
先生とは、アーシェ・ローハーツのことだろう。アーシェの診療所で滞在できるとは、こっちとしても非常に有難い。常に彼女の近くに居られるので、動きやすくなる。そんなことを考えていると、
「セツナ殿、お待ちしました。アーシェ先生です」
ロウシュ村長が連れて来たのは、燃えるように赤い髪を持つ少女だった。