序章 ヒロインside 旅立ち
「本当に行くの?」
心配そうに見つめる妹を撫でながら、「うん」と答える。
「姉さんは、里の次期長老なのよ?」
「違うわ。次期長老は貴女よ。私は試験に落ちた。貴女の事は、私も、里の皆も、御先祖様達だって認めてる。それに…」
「それに?」
「私は里を出て、世界を見てみたい。私の魔法や知識を、困っている人の役に立てたいの」
「この里にも、姉さんの力が必要な人がいる」
なおも引き留めようとする妹に、普段以上に厳しい表情で答える。
「しっかりしなさい。貴女は次期長老なのよ。貴女がこんな状態では、里は滅びてしまう。貴女には里を守る責務があるの」
俯いて肩を震わせる妹を優しく抱き締める。
「これが今生の別れじゃない。私達は姉妹よ。切り離せない絆で結ばれているの。貴女は里で、私は里の外で頑張るわ。貴女に魔法の祝福を」
「分かったわ。姉さんにも、魔法の祝福を」
妹は俯いていた顔を上げる。さっきまで弱気だった表情はなく、自らの意志を決めた頼もしい表情があった。これならば、大丈夫。そう思える表情だ。
その日の内に里を出た。里の外は、里で感じる以上に数多の命で溢れていた。これからの生活に希望を感じながら、一歩を踏み出し歩き出す。