序章 主人公side 魔女裁判
円形に並べられた沢山の椅子に綺麗に着飾った貴族や商人達が座っている。どいつもこいつも下劣な笑みを浮かべ、好奇な視線を向けているのは、柱に縛られた一人の女性だ。
「被告人は、隣人に黒魔術を行使して殺害し、隣人の財産を奪った罪に問われている」
今から始まるのは裁判だ。ただし、罪人は何の罪もない一般人で、100%有罪が確定している魔女裁判だ。
魔女裁判は基本的に公開される。公開される事により、興味のある人は見に来て、その中から新たな魔女を作り出して、また裁判にかける。魔女裁判は一種の祭りで、処刑された日には町中が1日中騒ぐ。教会が自らのメンツと正義を正当化するために行う胸くそ悪い儀式みたいなものだ。
「当裁判は被告人を火刑に処し、二度とこのような事件が起こらないよう、神に誓うことにする」
柱に縛られた女性は泣きながら叫んでいるが、それはこの場では意味をなさない。異議も反論も出す事は許されない。そして魔女裁判の最も残酷な所は、即日で刑が執行されることにある。存在しない神に祈る時間も許されず、衆人に見られながら、生きたまま焼き殺されるのだ。
「火を放て!」
例外はない。目の前にいる女性にも火が放たれた。
「いやぁぁぁ…」
炎は女性の体を包み、女性は異臭を放ちながら灰になっていく。跡形もなく灰になってやっとこの裁判は終了した。
裁判が終了し誰もいなくなった後も、俺はそこにいた。灰は綺麗に片付けられ、裁判場となった広場は何事もなかったかのようで、子供達が走って遊んでいる。その光景を見ながら、俺は一言、「ごめんなさい」と呟く。皆が女性を忘れても俺は覚えておくよ、と付け加えて。