EP7 仔竜と仔馬とそして・・・・・
漸く夜が開け日の出を迎えた僕は一人テントの外に出て深呼吸を一つ。静かで清浄な空気が心地よかった。
「空気が澄んでいて気持ち良いや。・・・・あれ?」
一人辺りを見回すと昨日はあれだけ感じた幻獣達の気配がまるで感じられない。恐る恐る遺跡の方へ足を伸ばす事にした僕は呆気に取られ何も言えなくなってしまっていた。
「・・・・・・・・」
沢山居たペガサスや白竜達が一頭もそこには居ない。あれだけの数が移動するとなれば気配に敏感なアレスが気付く筈、しかし昨夜アレスは目覚める様子もなく熟睡していた。
どんなに考えても埒が明かないと思った僕は再びテントに戻ろうと踵を返し歩き始めた所で視界の隅に何か動く物を感じ振り向こうとしたその時だった。
ミギャ!
「うわっ!?」
小さな何かが僕を目掛けて飛び掛って来た為に驚きの余り尻餅をついて倒れこみ、ついでにその性で背中に何かが当たった様な衝撃を感じた。
「痛たた。何が・・・・え?」
僕の前には純白の鱗を持った小さな竜。
「・・・・・は?」
そして僕の背後にはペガサスの仔らしい白馬。
その二頭は僕の側に寄るなり頬ずりをして何かを訴えている様子だったが混乱していた僕はされるがままの状態だった。
「置き去りにされたのかい君達は?」
自分が孤児同然だった為に何故か彼等を放って置けなかった僕は仔馬の首筋を撫で、仔竜の頭を摩ると機嫌を良くしたのか喉を鳴らしていた。
「一緒に来るかい?」
言葉が理解できるかどうか不安だったがそう尋ねると、仔竜は僕の肩に乗り仔馬の方は立ち上がり僕の方をじっと見つめていた。それを同意と取った僕はテントに向かって歩き始めると仔馬は僕の後ろを歩き始め、仔竜は肩で嬉しそうにミギャミギャ鳴いていた。
「あ、セリス君おかえりー。何処行ってたの?」
テントから少し離れた場所でリリーナ様が剣を振り回しながら鍛錬?をしている所だったのか、声を掛けられ答えようとしたその時。
「可愛いー。どうしたのその仔達ー。」
僕の肩と背後に居た二頭を見るなりリリーナ様は持っていた剣を放り出し僕に走り寄って来ていた。その姿にビックリしたのか仔竜は肩から飛び上がり、仔馬の方は背中に体を摺り寄せていた。
「リリーナ様。この仔達がビックリしてますからもう少し静かに・・・・・」
「可愛いよー。このチビちゃん達何処で見つけたのー?私も欲しいー」
僕の話を聞いてくれないリリーナ様に四苦八苦していると、先程放り投げた剣の轟音で目が覚めたらしいフローネやアレス、さらにレナード先生までもが眠そうな目を擦りながら姿を現していた。
「何?どしたの?」
「凄まじい轟音がしたのだが?」
「騒がしいぞ。リリーナ」
三者三様の声と共に救いを求める様に目を向ける僕だったが、その一瞬の隙を突いてリリーナ様が仔竜を捕まえ頬ずりを始め、仔竜はジタバタと嫌がる様に体を動かしもがいているが、彼女の力の前には全く役に立たずに居た。
「あ!貴方ー。見て見てこの仔可愛いでしょー!」
「全く何事・・・・だ?」
リリーナ様が差し出した仔竜の姿を認識したレナード先生の体が硬直し、同じくその姿を見たフローネは瞳を輝かせ、アレスは興味深そうにその姿を眺めていた。
「先生?」
「・・・・・・・」
無言。
「フローネ?」
「可愛い・・・・・」
此れでもかと言う程に瞳が輝いている。
「アレス?」
「興味深い。全く持って興味深い」
駄目だ。全く持って何の役にも立たない。
「取り敢えずリリーナ様その仔が嫌がっていますから離してください!」
三人が役に立たないと思った僕は強引にリリーナ様から仔竜を引き剥がし、隠す様に背を向けると彼女はさも残念そうにしている。
その姿に漸く硬直から開放された先生やフローネ、アレスが僕の側に駆け寄って来ていた。
「「「何処で見つけた!」」」
異口同音で叫び僕を問い詰め、レナード先生は一方的に捲くし立て始めていた。
「いいかセリス!白竜の仔は同種にしか絶対に懐かないんだ!それがこんなにもお前に懐いているなんて通常は在り得ない事なんだぞ!それに後ろのペガサスの仔も同様だ!ペガサスは生まれてから数年は親元で育ち、そもそも聖域から出ることなぞ絶対に有り得ん事なんだ!どうやって懐かれた!何処で見つけた!答えろセリス!」
その先生の剣幕に圧倒されながら僕は唯遺跡の調査に来ただけなのに何でこんな目に合うんだ?と、暗澹たる気持ちで先程の状況を説明し始めた僕が居たのだった。