EP3 説教と説明そして・・・・・
「セリス。私達に何か言わなければならないが在るわよね」
「そうだな。正確かつ適切な弁明を求める」
自室にたどり着いた僕は部屋に入り込んでいたフローネとアレスの無言の圧力に負け、ソファーに腰掛ける二人の前に正座で座り込む。すると二人は前述の言葉を呟くと更なる圧力が僕に襲い掛かった。
「えっ・・・と。端的に申し上げますと二人に迷惑を掛けたくなかった、と申しましょうか・・・・・・」
訳の判らない敬語と余りにも見苦しい言い訳が僕の口から零れると、目を瞑っていたフローネが目を見開き、僕の肩を揺さぶり始める。
「だ・れ・が!い・つ!迷惑なんて言ったのよ!しかも!セリスがあの連中にやられていた理由が腹ただしいわ!彼方が落ち零れ?ふざけるんじゃないわよ!セリスの努力も知らないくせに!魔力が無い?別に良いじゃない!魔力が無くったって!」
ガクンガクンと僕を揺さぶりながらだんだんフローネの気が昂ぶってきたのだろう。僕に対する説教から、あの連中に対する怒りを爆発させる。
「おいフローネそれ位にしとこう。だんだんセリスの顔色が悪くなってきた。それに支離滅裂になってきたぞ」
苦笑いを浮かべながらフローネを引き剥がすアレスだったが、彼も僕の肩を両手で掴むと口を開いた。
「言いたい事は粗方フローネが言ったが、私も同じ意見だ。君の事を迷惑などと思ってはいない。そうでなければ幼馴染でもない私がここまで言わないよ」
落ち着いた口調ながらはっきりとした怒りを感じ取った僕は無言のまま頷く、するとアレスは満足したのかにこやかな笑みを浮かべ僕の肩から手を離した。フローネも僕の態度で満足したらしく漸く笑みが浮かんだ。
「それじゃこの話はこれで終わりにしよう。話は変わるけどレナード先生が仰っていた遺跡の調査の件だけどセリス、君の口から詳しい内容を聞くようにと言われてるんだが?」
唐突に話を変えたアレスに僕は面食らったが、その話をしなければ先に進まないと思い頷いて口を開いた。
「うん・・・・・・。わかった。じゃあこれを見てくれないかな?」
そう言って僕は机の引き出しに入れてあった数枚の資料を二人に手渡し、ぼくは一冊のノートを手に説明を始める事にした。
「まずは遺跡の名前はバルニガン遺跡。5年程前に帝国の学者バルニガンによって発見された遺跡なんだけどね。作られたのは約800年前の魔導大戦の始まる前、双術聖が魔導術を生み出した前後の時代らしい」
渡された資料に目を落としながら聞いていた二人だったが、不意にアレスが手を挙げ質問をぶつけてきた。
「ちょっと良いかい?学者が発見したと言っていたけどその際に調査は行われなかったのかい?」
「いや。さすがに魔導大戦以前の遺跡と言う事もあって宮廷魔導師やこの学園側からも人員を出してかなり大規模な調査が行われたらしい。先生も調査に参加したらしいからね」
するとフローネが不思議そうな顔をして僕に疑問をぶつけてきた。
「じゃあ・・・。あんまり意味が無いんじゃない?もう調査は終わってるんでしょ?」
予想できた疑問に僕は笑みを浮かべ、手に持っていたノートを開きある部分を指差した。
「そうでもない。調査は予算の関係上地表部分に限られていたらしいし、このノートは先生がバルニガンから渡された物なんだけど此処を見てごらん。こう書いてある「この遺跡の北東に存在する不可思議な祭壇に刻まれている紋様は200年前に大戦を終結させた英雄帝の紋章に酷似している。魔導師達はこの祭壇の下に空洞が存在しているのではないかと意見を述べているが、予算の都合上これ以上の調査は諦めざるをえない」ってね」
「じゃあセリスは・・・・」
「うん。この祭壇の下に在ると予想される”何か”を知りたくてね。もしかしたら英雄帝が発見した二冊の魔導書が在った場所かもしれないし、そうじゃなくても英雄帝に関連した何かが眠っているじゃないか?と僕は思ってるんだ」
そう言って締めくくった僕に二人は可笑しそうに口に手を当てて笑いを堪えているように見えた為、何か変な所が在ったのかな、と思っているとアレスが「違う、違う」と手を振って否定した。
「やっぱりセリスはそうじゃなくちゃな、と思っただけさ。別に変な所なんて無いよ」
「そうそう。自分の意見を言っているセリスの姿が見違えて格好良く見えて・・・・」
そう言って顔を真っ赤にして口を噤むフローネだったが、アレスの顔にはニヤケ面が浮かび、僕は思わず顔を下に向けてしまっていた。
「ふ・・・・二人共何か聞こえたかしら?」
「「何も聞いておりません!!」」
フローネの脅しとも取れる声音に僕とアレスは声を揃えて答え、フローネは「よろしい」と頷くと咳払いをして一言。
「じゃあ出発はこの予定表の通り二日後の早朝で良いのね?」
後で考えてみるとこの調査が僕等の未来と僕自身の在り方を変えた切欠の一つだったんじゃないかと思う。