EP1 始まり、そして・・・・・
帝暦218年春。
「おはよう!元気してた!」
「相変わらず眠そうだな」
快活な少女の声と落ち着いた少年の声が僕の耳に届いた。
「おはよフローネ、アレス。昨日も徹夜でね、危うく始業式を忘れて寝過ごす所だったよ」
二人の友人「フローネ・アーファイト」と「アレス・レーニッツ」に振り向きながらそう答えた僕には二人の姿が眩しく見えた。
まさに美少女と美少年を描いたような二人は幼馴染ながらお似合いの恋人同士とも思える。
それに引き換え僕の姿は彼等と同じ制服を着ていながらも凡庸の一言に尽きる。
「何よ、セリス。私の事見つめちゃって・・・・・。惚れ直したかしら?」
「違うぞフローネ。俺の格好良さに見惚れたに違いない」
「そうじゃない!」と声を大にして言いたかったが、あえて口を閉じる僕にフローネとアレスは大きなタメ息を吐くと、僕を二人が取り囲むように両隣に立って歩き出す。当然僕の腕を掴んだ状態で。
「ちょっと二人とも一体・・・・」
「いいから来るの!どうせまた自分を過小評価していたんでしょ!」
「その通りだ。お前はお前であり私達ではないんだからな」
フローネとアレスはまるで僕の保護者であるかの様に注意を促すと、その体勢のまま僕を新クラスを表した掲示板まで引きずって行くのであった。
「あの落ちこぼれが!我等の女神であるフローネ様と手を繋ぐなど・・・・・!」
「そうよ!私達の英雄であるアレス様にあのようなお顔をさせるなんて・・・・・!」
去って行く僕等の背後から聞こえる怨嗟の声が耳に届き、僅かに見えたその人物達に僕はこの後にほぼ確実に起こるであろう出来事が予見でき、先ほど二人がしたものより大きなタメ息をはいた。
「フローネ・アーファイト」現学園長の孫であり攻式、守式を統合した統合術式課を専攻し、学園一の美貌と祖父譲りの類稀な魔力量を保有する才媛。
「アレス・レーニッツ」帝国軍の三大軍団の一つ”火神”を率いるエルド・レーニッツを父に持ち、学園一の剣技とフローネに匹敵する魔力量を持つ魔導騎士課を専攻する天才。
そして僕「セリス・ウィーアス」この魔導学園の最底辺に位置する術史課を専攻し、魔力の欠片も持たない落ちこぼれ。
そんな僕が学園のトップ2である二人と仲良くすれば当然周囲からの僻みや妬みなどを買う。
そう当然のことだった。
「アウッ!」
僕の腹部に重い一撃がぶつかる。目の前が暗くなる、口からは胃液が飛び出る。あまりの痛みに意識を失いそうになるが更なる一撃が気を失うことを許さなかった。
「火球!」(ファイアーボール)
僕の足に向けて小さな炎の塊がぶつかり、その熱が意識を覚醒させ僕の周囲を取り囲む数人の生徒の嘲笑が目に映る。
「落ちこぼれの癖に!」「生意気なんだ!」「クズが!」僕を痛めつけながらまくし立てる彼・彼女等は、帝国貴族の中でも上位に位置する連中でフローネやアレス非公認の親衛隊を自称する者達だ。
始業式を終えた僕はフローネ達からお茶に誘われていたが、自室に忘れてきた今日返却期日になっている歴史書を取りに戻るために一足先に学生寮に戻っていた。
そんな僕を彼等は寮の裏手に引き釣り込み一方的に痛めつけ「あのお方達に近づくな」「貴様などとっとと退学しろ」などと暴言を吐く。
これは日常茶飯事の事だ。もはや彼等のストレス発散の場であり建前として、僕を力付くで説得しているとの事だった。悪いのは説得に応じない僕であり、自分達は二人を護る為に嫌々この暴行をしていると・・・・。
どんなに痛めつけられても僕には二人と約束した夢がある。それを諦めたくないその事だけが彼等からの暴行に耐えられる原動力だ。
だから僕はこう叫んだんだ。たった一言どんなに痛めつけられても。
「貴方方の言いなりにはならない・・・。絶対に・・・・!」
その言葉が言い終わるか否かの時、僕の体に先程に倍する痛みと熱が遅い意識を失いそうになる。
「ごめんフローネ、アレス。約束に間に合わないかも・・・・」
その呟きとともに僕の意識は闇に飲まれた。