我が家の肉じゃが
「トン、トン、トン…」
「さすが、手際がいいですねぇ〜」
…うるせぇ…。
今日は、タイムサービスの戦利品で、肉じゃがだ。
…白滝、買い忘れたけど。
まぁ、家では入れなかったりもするので大した問題じゃない。
ただ、5:00のタイムサービスに間に合ったので、少し予算が浮いたから買ってもよかったかな、と少し後悔はしているのだが。
鍋に野菜をいれて、火を通す。
「あれぇ〜今日はひき肉つかわないんですねぇ〜」
「あぁ、今日は豚肉安かっ…」
…?!
流石に驚いて、調理場との面積比が明らかにおかしい、流し台の淵に座ったおっさんを凝視した。
確かに俺の家では、ほとんど肉じゃがには切り落とし肉を使わない。
大して味も変わらない筈なのだが、まぁ、どこの家庭にもある、
「我が家のこだわり」ってやつだろう。
確かにひき肉を使うのは俺の家だけじゃないが、来て一週間も経たないおっさんにも分かる程、分かりやすい特徴ではない筈だ。
そこまで思考がたどり着いて、ようやく気付いた。
「あ、【顧客データ】か…」
おっさんはそれについては何も言わなかった。
その代わり、
「焦げますよぉ〜」とありがたい忠告をいただいた。
幸い、焦げてはいなかったようで。
鍋に水を注ぐ。
沸騰したら、味をつけて…
「慣れてますねぇ〜」
やけに静かで優しい声が、流し台から聞こえた。
見るとおっさんはしみじみと俺の手元を見てた。
びっくりした。
あの、聞いてるだけで、イラっとくる喋り方がどこにも見当たらなかった。
胡散臭いおっさんだと思っていたが…
結局作り終えた肉じゃがは、少し煮込み過ぎたようで、ジャガイモが煮崩れていた。