これは世に言うピンチとやらか。
さて、あのおっさんどうするか。
取り敢えず回収は掃除終わってからでもいいかな。
不良たちは、泥酔状態ということもあり、おっさんの事は幻覚だと思っているようだ。
幻覚見るくらい酔ってるってのは自分達でわかってるはずなのによく飲むなぁ…
二日酔い通り超して三日酔い起こしても知らないぞ。
なんとなくおっさんの事は頭の隅に置いて掃除を再開する。
…はずだった。
ザッ ザッ ザッ…
ん?
砂と地面の擦れる音。
スニーカー特有のその足音は1人の物ではない。数人の足音が近づく音がした。
音のした方へ顔を向けてみる。
体育館の角を曲がり、こちらの方へと歩いていらっしゃった方々は…
まぁ予想はしてたけどさ。
不良様3名様追加でーす。
「緋夜‼︎」
1人が声を上げて追加の3名様の真ん中の奴に駆け寄る。
足元おぼついてないぞ。大丈夫か。
それに気づいた他の奴らも、次々にそちらの方を向く。
つまりはその「緋夜」と呼ばれた人物はこの
不良のリーダー格なのだろうという事は予想がついた。
さっきまでの宴が嘘のように静まりかえり、葬式みたいだ。
って、あれ?素面?
酔い冷めてんの?
え、幻覚(おっさん現実だけど)見るくらいにはベロベロに酔ってたよな?
恐るべし、不良リーダー(仮)
って、そんなことより。
…なぜかこっちの方へ近付いて来る
俺の周りで呑んでた奴らの表情が強ばっていくのが視界の端に見えた。
そんな様子は気にも留めず、奴らの輪の中心を覗き込む。
酒飲みの輪の中に、緋夜と呼ばれた人物はおっさんを見た。
反応は…無い。
笑いもせず、驚きもせず。
ただ、一言呟いた。
「…何、こいつ。」
声変わりの途中だろうか。掠れた声だった。
周り奴が慌てて説明に入る。
と言っても、あまりろれつが回っていなくて、何言ってんのか分かんないけど。
意識的に酔いが醒めてても、やっぱ体には残るんだなー。
俺も将来飲むようになんのかなー。なんか嫌だなー。
変な方向に思考を巡らせたところで、周りのざわめきに気がついた。
『え、あれ幻覚とかじゃねぇの?』
『緋夜も見えてんの?』
『キメ過ぎたんじゃね』
『でも俺等みんな見えて…』
まぁ、妥当な反応だろう。
俺も最初信じられなくて、本当に精神病院入院しようかと思ったもん。
変なもん見えたとか周りに言えないし。
だいたいおっさんだぞ。絵に描いたような。
「へぇ…売れるかな…」
緋夜のまたの一言の呟きで、周り様子は一気に変わった。
『確かに…』
『あんなちっせーおっさんとか現実じゃ考えられねー』
『ヤホオクとか、売れるんじゃね?』
さっきとは雰囲気の濁った話し合いの末、
1人が投げっぱなしだった掃除用具の中からゴミ袋を取り出した。やはり足元はフラフラしているが、とにかく話し合いの結果、
ーおっさんを捕まえる事に一致したようだ。
これはもしかしてー
ー結構状況やばかったりするか。
というか肝心のおっさんは…?
緋夜に向けていた顔を、その輪の中心に戻す。
うん。いるね。
飲んでるよ。消しゴムサイズとビールジョッキで。
「ーよし…じゃあ袋ん中入れるぞ…」
「ー逃げたらそっちな…」
ひそひそ声で話される作戦(?)は、聞き逃していいものではなかった。
緋夜とかいうやつは、おっさん捕獲には参加しないようだ。少し下がってニヤニヤしながら見物している。
ってか、明らかに不良じゃない奴いてもノーマークなのね。
ゆっくりと、袋を持った金髪が近づく。
ーいや、別に助ける義理とかないんだけど…
「ーじゃあ…行くぞ…」
正に袋を被せようとしたその時。
俺は地面を蹴った。
袋がもう頭上にロックされているおっさんを素早く攫う。
ーやっぱ後味悪いじゃん!
つまりは、逃げるが勝ち。