異変-3
まもなく、アリアが二人の騎士を伴って悠樹の部屋を訪れた。
悠樹は心配かけたことを詫び、それからシェリスと見た湖や火事の様子などを話して聞かせた。アリアも運び込まれた悠樹よりも青くなってうろたえるファルシオとシェリス、そして彼らを一喝して医者の手配をするローミッドの様子を冗談めかして伝えた。そして顔を見合わせて笑う。そんな、普段と同じ様に過ごす夜。違うのはドアの向こうにある騎士たちの気配とどこか緊張して見えるお互いの表情、そして触れないようにする一つの話題。
「そういえば」
窓から外の様子を伺ってカーテンを閉めるという、すでに何度も繰り返した動作を行いながらアリアが悠樹に振り返った。
「殿下と仲直りされたのですね」
穏やかな笑顔で問われ、悠樹の頬に朱がさした。
「べ、別に。って言うか、喧嘩してたわけじゃないし」
「そうですか?このところ塞ぎこんだご様子でしたのに、今は明るいお顔をされていらしたので、てっきり」
「そんなことは……」
「しかもお二人揃って同じご様子なんですもの。それに先程の殿下のご様子と言ったら」
ふふふ、と笑う声に悠樹の顔が赤く染まる。アリアの瞳に宿る光は優秀なメイドとしての気遣いだけではない。悠樹の前で見せるようになったその表情は、歳相応の好奇心によるものが大きいのだが、悠樹はまだ気付いていない。
「想いはお伝えになりました?」
「な、ななななんのこと?」
真っ赤になって視線を泳がす悠樹を堪能してから、アリアはそっと安堵の息を吐いた。
「そのご様子なら大丈夫ですね。不安がなくなったようで私も安心いたしました」
「え?」
「殿下が十八歳をお迎えになる少し前から纏っていらした雰囲気によく似ていらしたので。殿下も悠樹様も、私達には不安そうな顔を見せてはくださりませんが、おそばにいるとわかってしまう時があるんです」
笑顔は崩さず、アリアはその瞳だけを悲しそうに瞬かせた。その表情を直視できず、悠樹はそっと視線を伏せる。
「……ごめん」
「ですから、隠さないでください」
想像していなかった言葉にはっとして顔を上げると、普段と同じ、いやそれ以上に温かいアリアの笑顔がそこにあった。
「隠しても無駄ですから、隠さないでください。苦しいことも悲しいことも」
「アリア……」
「それから殿下がお好きだということも」
「ア、アリア?!」
「ふふふふふふ」
顔を赤くして言葉を失う主人の前で、優秀すぎるメイドは口元を押さえて笑った。
ストーリーとは関係がありませんが、ご挨拶です。
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お礼に何か・・・とも考えたのですが、実はこのあと番外編を差し込む場所がありません。なので、完結目指して頑張る、ということでお礼に代えさせていただければと思います。
一応、4月中の完結を目指しております。よろしければ最後までお付き合いください。