それぞれの真実-4
薄暗くなった室内に明かりが灯る。術具の力を借りて点灯した柔らかな炎は、視覚と触覚の両方からあたたかさを感じる。その明かりに照らされて、虚をつかれたような表情のファルシオが小さく頭を振った。
「俺は望んでもいいのか?」
唐突な問いに、悠樹はファルシオを見返した。
「何を?」
思いつめた彼の瞳に、意味がわからずきょとんとした悠樹の顔が映りこむ。答えようとしないファルシオに首をかしげてから、悠樹はうーんと唸った。
「ファルの立場で大陸統一って言われたらシャレにならないけど、何かを望んじゃいけないなんてこと、ないと思うよ」
表情を変えないファルシオに向かって、悠樹は顔を綻ばせた。
「何一つ望めない人生って、努力のし甲斐がないもん。そんなの、つまらないでしょ?」
にこにこと笑う悠樹の顔をぽかんと見つめた後、ファルシオがふいに口元に笑みを浮かべた。それはすぐに広がり、片手で顔を覆うと肩を震わせる。
「何かおかしなこと、言った?」
「いや」
くくく、となおも笑いながら、ファルシオが顔を上げた。どこか吹っ切れたようにも見える、その表情は明るい。
「確かに、望みを言えないのも、それが叶わないのも、つまらないな」
「でしょ?」
うんうんと頷く悠樹の髪をなでて、ファルシオは彼女の瞳をまっすぐに捉えた。
「俺のそばにいてくれ」
「え?」
「それが俺の望みだ」
どきりと、胸が大きく鳴った。それを押し留めて、一番気がかりな問いを口にする。
「で、でも。ファルのそばにいるのは援助をしてくれる国のお姫様のほうがいいんでしょう?だから私がいるとファルは困るだろうけど、できればこの国にいることくらいは許して欲しいなーってことを言ってるわけで―」
「国としても俺個人としても、他国の姫を受け入れる気はないと言っただろう。何を聞いていたんだ、お前は」
呆れたように溜め息をついて、ファルシオはくしゃりと自分の髪を混ぜた。膝の上で握り締められたままの悠樹の手に自分の手を重ねる。
「覚えていないのか?俺は国の再建に力を貸して欲しいと、悠樹に言ったんだ。俺に必要なのは―」
ファルシオは軽く言葉を切り、立ち上がった。腰掛ける悠樹の前に跪き、その手を取ると、そっと指先に口付ける。
「俺が愛しているのは、悠樹だけだ」
少し低い位置からファルシオが悠樹を見上げる。穏やかな微笑みの裏に宿る、真摯な光。その瞳に見つめられ、悠樹はくらりと視界が揺れるような感覚に襲われた。