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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
93/166

それぞれの真実-3

 悠樹は瞳を閉じ、一度だけ深呼吸をした。そしてまた窓をその瞳に映す。

「私は自分の部屋のベッドで寝てて、お母さんに起こされるの。制服を着て、学校に行く仕度をして、そんな、普通に生活している夢」

「悠樹……」

「あの世界には術なんかなくて、私はどこにでもいるような平凡な女子高生で。でもお父さんもお母さんも近くにいて、毎日小言とか言われながら学校行って。そういう私の毎日がずっと繰り返されていく場所。それがね、私の“普通”だったの」

「……」

「でも目が覚めたら、私はまだ、この部屋にいた」

 指を組んで頭の上に持っていく。伸びをして、そのまま腕を顔の前に移動させてから、ぱたりと膝の上に落とす。意識して肩の力を抜いてから、そっと、息を吐いた。

「夢でよかったって、思った」

「……何?」

「実はさ、ここに来た最初の夜にも同じ夢を見たの。それでどうしても帰りたくなって、どこにあるのかもわからない家を探して勝手に外に出た。なのに、今日は……それが夢でよかったって、思ったんだ」

 ずっと考えてきた。

 言葉にできない、自分の中でも整理がつかない気持ちの意味。

 今もまだ不確かだけど、でもあの夢を見たことではっきりわかったことがある。

 それを伝えたくて、悠樹はファルシオと視線を合わせた。

「ごめん。私、すごく役立たずだけど、迷惑、ばっかりかけてるけど。……それでも、まだこの世界にいたい」

 努めて平静な態度を取ろうとした努力は実らず、奇妙に裏返った自分の声に苦笑してしまう。

「いて、くれるのか?」

 悠樹と同じくらい、動揺して掠れた声でファルシオが問う。その表情は戸惑いを隠し切れていない。

「この世界に悠樹を縛り付けたのは俺の呪いだ。だから俺はあの時、悠樹を元に戻すと約束した。その義務が、俺にはあると―」

「違うよ」

 やんわりと、だが明確な否定の言葉を口にする。

「あの時は何がなんだかわからなくて、思わずファルに当り散らしちゃったけど。でも私は縛られてなんかいないし、ファルに義務なんかないって、今はちゃんとわかってる」

(ファルの邪魔になるならそばにいちゃダメだって思った。

 それが辛かった)

(ファルの邪魔になるくらいなら、元の世界に帰るべきだって思った。

 それが悲しかった)

(ファルは私を追い返したがってるのかもしれないって思った。

 それに何より傷ついた)

(でもそれって―――)


(帰りたくないってこと?

 ……ここに、ファルのそばにいたい、ってこと?)


 心に浮かぶ自分自身への問いかけに、悠樹は力強く頷いた。

「私は、私の意志で、この世界にいたい。今は、そう思ってる」

 きっぱりと言い切った悠樹の瞳に、もう迷いは無かった。

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