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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
92/166

それぞれの真実-2

 ファルシオから伝えられた話に、悠樹はまず少年の無事を喜び、そして噂の内容に声を上げて笑った。その屈託のない笑い声が、ファルシオの感情を爆発させるきっかけとなってしまったのだ。

『自分が何をしたのかわかっているのか!本当に天に召されるところだったんだぞ!』

 右手に果物ナイフ、左手にうさぎリンゴを持った状態では迫力も何もない。

 だが、少年と共に助け出された直後に真っ青になって意識を失い、そのまま屋敷に運び込まれてから一昼夜、意識が戻らなかったと聞かされた後では、彼の怒りはもっともだと思わざるを得ない。

 慌てて頭を下げたのだが、それ以降ファルシオの態度は硬化したままだった。


 かける言葉も見つからず、気まずさを紛らわすために二個目のリンゴに手を伸ばしたとき、ファルシオが何か呟くのが聞こえた。

 見れば、背を窓に、視線を下に向けた格好でファルシオがため息をついている。そこに怒りの表情は見えなくて、悠樹はもう一度謝罪を口にした。

「ごめんなさい。

「…………もういい」

 小さく首を振り、窓から背を離す。ファルシオはゆっくりと歩み寄ると、悠樹の隣に腰をおろした。その膝の上で指が組まれる。

「人命救助を優先した事を責めるつもりはない。いや、本当なら礼を言わねばいけないところだ」

「でも……勝手なことして、ごめん」

「何をいまさら。勝手に動いているのはいつものことだ」

 軽く答える、その口調とは裏腹にファルシオの指に力がこもっているのを見つけて、悠樹はそっと、そこに自分の手を重ねた。びくりと緊張して逃げて行きそうになるその手を握りこんで、ファルシオの顔を覗き込む。

 夕陽のせいかわずかに染まったように見える顔に、驚きと困惑と苦悩を見つけて、悠樹はファルシオと視線を合わせた。

「心配かけて、ごめんね?」

「……わかっているなら、もう二度とあんな危険なことはするな」

「もう一回やれって言われても無理。今になって体が震えてくるもん。ほら」

「だから、やるなと言っている」

 両手を広げ、冗談めかした悠樹の返事にファルシオが呆れたように笑う。

 怒りの表情で隠していた顔の強張りが薄れたのを感じて、悠樹にもようやく本当の笑みを浮かんだ。

「自重します。……またシェリスの水龍(クレイ・カルテ)に助けられちゃったね」

 最初は、と言いかけて口をつぐむ。

 その時ファルシオに投げつけた自分の言葉を思い出したからだ。

「……悠樹」

 感情を抑えた声で呼ばれて悠樹は声の主を仰いだ。

 同じことを思い出したのだろう。金に近い茶色の瞳から、また笑みが消えていた。

「今も―」

「あ、あのね」

 何かを言いかけたファルシオの言葉を遮って、悠樹は窓のほうに視線を向けた。

「さっき、夢を見たんだ。……元の世界の夢」

 隣で息を飲む音が聞こえた。

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