夢からさめてⅡ
「いつまで寝てるの!いい加減起きなさい」
「ふえっ?!」
突如響いた懐かしい声、懐かしい小言。
ばさりと布団を跳ね上げて、悠樹は上体を起こした。きょときょとと周りを見回すと、そこは懐かしい自分の部屋。
自分を見下ろす懐かしい顔が、呆れたような表情を作る。その視線を受け止めて首を傾げた。
「あれ?」
「あれ、じゃないでしょう」
「……なんで?」
瞬きを繰り返す悠樹の目の前で、処置なしと言わんばかりに首を振ると、母親は娘に背中を向けた。
「寝ぼけてないで、さっさと起きなさい」
「そんな。……あれが夢?うそ」
ばさりと布団を跳ね上げてベッドから抜け出し、慌しく制服に袖を通す。鏡の前に立ったとき、ふっと悠樹の上に黒い影が落ちた。
そこはすでに悠樹の部屋ではなく、学校正門前の横断歩道。大きな黒い影が迫り、ブレーキ音が鼓膜に突き刺さる。咄嗟に目を閉じると、身体が落ちていく感覚が悠樹を襲った。
何かを叫んだところで、目が覚めた。額に滲む汗を手の甲で拭うと、首だけを動かして周囲を見回す。
高い天井、大きな窓、高級感のあるローボードとクローゼット。誰もいない、でも見慣れた自分の部屋は朝の光で満たされていて、時折鳥の声が聴こえてくる。
自分の身に起きたことが夢ではなかったことを改めて認識して、悠樹は大きく息を吐き出した。
そして。
「夢で……――った……」
安堵の混じる声で囁かれた言葉は吐息に消える。
(そういえば、いつかもこんな夢を見たような気がする。あれは……)
思い出そうとする意識がそのそばから再び溶けてゆく。室内に規則正しい寝息に落ちるまで、それほど時間はかからなかった。