騎士シェリスと遠乗り-3
「どうして!?」
強い調子で問う悠樹に、シェリスはゆっくりと口を開いた。
「武器として使用される術具には使用回数の制限が設けられています」
その言葉に悠樹も頷く。
家庭などで使用される術具には通常、使用回数は定められていない。だが、武器として使用される場合は違う。戦争や盗難などで敵方に武器を奪われる可能性を想定されていて、その使用回数を超えると術具は発動せず、普通の武器と同じになる。
術師が後から使用回数をリセットすることもできるために、繰り返し使用することはできるということだったが、戦場での連続使用は不可能に近いという。
これは以前、シルクに聞かされた話。
セルナディアにも敗戦経験がある、という事実に驚き、その理由を訊ねた際に得た、術師や術具も万能ではないという答えの一つだ。
「水龍はその威力故、一度しか使えません。悠樹様をお守りするために殿下からお預かりしている以上、他の用途で使用するわけには……悠樹様!」
唇を噛み視線を伏せた悠樹は、シェリスが言い終わるよりも早く、玄関方面へと走り出した。バケツリレーの列から水の入った桶をひったくると、それを自らの頭の上でひっくり返す。
「あんた、何して――」
「中に子供がいるの!」
目をむいて怒る男に怒鳴り返して、空になったそれを投げ捨てる。
さらにもう一つの桶にケープを押し込み、自分を追ってきたシェリスに向かって言い放った。
「シェリス!」
名を呼び、言葉を切る。
炎の照り返しを受けて、強い意思を持った瞳が輝いた。
「水龍で私を守って。……お願いね」
気負いも恐怖もない表情が、ふいに笑みの形に変わる。
その場にいた全員がその微笑みに気を取られている間に、悠樹は十分に水を吸ったケープをまとって炎の只中へ姿を消し、シェリスはあわてて剣を取りに走った。
呆然としたままの村の男たちに消火活動を続けるように指示を出し、シェリスは発動の言葉を口にする。ともすれば炎の中に追いかけようと逸る心を沈め、目を閉じて、意識を集中させていく。
構えた剣の重さが増し、それが限界まで水を湛えた時、彼は目を開いた。
目の前には炎を噴き上げる家屋。
舐めるように這う火によって、家はすでに従来の強度を失っている。普段の力のままに剣を振れば、その圧力によって倒壊してしまうだろう。
少年がいた場所を避け、効率良く水を注ぐためにはどう斬り込めばいいのか、必死に思案する。
広範囲の敵から一気に戦力を奪うための武器は、もともと繊細な調整には不向きだ。わかってはいるが、ためらっていては彼女を、大切な少女を守ることは出来ない。深く息を吐き出して足場を確認すると、改めて剣を握る手に力をこめた。