騎士シェリスと遠乗り-1
シェリスに案内と護衛を頼んで出かけた先は、城から少し離れたところにある湖だった。
ちょうど陽が傾き、夕暮れのオレンジ色をその水面に映しながらキラキラと光をはね返す。湖上の舟は、長く伸びた影をつれて対岸にある村へと戻り始めている。
「すごい、綺麗」
「……はい」
思わず出た独り言にシェリスが律儀に頷く。彼は相変わらずの無口だが、その声の調子で言いたいことがわかる程度には、悠樹もシェリスのことを理解できるようになっている。
安堵のこもったその返事に、悠樹は後ろに立つ男を振り返った。
「こんな素敵な場所を知ってるなんて、すごいね」
「子供の頃偶然。自分はあの村で育ちましたので」
悠樹の背後に視線を向ける。つられて悠樹も前へと顔を戻した。夕飯の準備が始まったのか、村のあちこちから煙が上がり始めている。
「嫌なことがあると、ここから村を眺めていました。昼も夜も、ここから見える村と山と湖が好きでした。この景色だけは、あの頃と何も変わらない」
目を細め、いつになく饒舌に語るシェリスの言葉を聞きながら、悠樹は山にかかる太陽を見ていた。
徐々に隠れていくのに比例して、空は急速に夜の色を濃くしていき、村には明かりが灯り始める。
「そろそろ戻りましょう。これ以上遅くなっては夜気がお体に障ります」
馬首を返し、シェリスが呼びかける。
それに頷きかけて、悠樹はもう一度対岸の村を見直した。
点在する煙突から立ち上る煙と窓から漏れる明かり。その中で、一際大きな光点が瞬いた。
「待って、シェリス。……変だよ」
「何か?」
「あの村。ほら、あそこ」
悠樹が指差す先で、明かりがまた揺らめいた。黒煙が天へ昇り、何か異常が起きていることが伝わってくる。
「あれ、もしかして……」
見合わせたお互いの顔に浮かぶ同じ答えを確認して、二人はほぼ同時に愛馬に鞭を入れた。