表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
85/166

伝えたい言葉-2

 二人が口には出しにくい理由を胸に秘めて黙り込むと、ローミッドはわざとらしく溜め息をついた。そして、ファルシオには国王から急ぎの書類が届いた事、悠樹には庭でシェリスが彼女を待っていることを伝える。

 それを聞いて、悠樹が小さく声を上げる。今日の午後、遠乗りに付き合って欲しいとシェリスに頼んでいたことを思い出したのだ。


 この世界に来て、悠樹の趣味に加わったのが乗馬だ。教官として現れたシェリスも驚くほどの上達ぶりを見せた悠樹は、遠乗りと称して気分転換に出かけることが多かった。

 今日もそのつもりでシェリスに時間を取ってもらったのだが、庭に向かう途中で逃げて追われてすっかり忘れてしまっていた。

「仲がよろしいのはけっこうですが、時間と場所とお立場をお忘れにならないでください」

 仲がいい。

 何気ないローミッドの言葉にどきりとして、隣に立つファルシオを盗み見た。適当に相槌を打つファルシオは悠樹の表情の変化に気付かずに来た道を戻りかけ、ふいに立ち止まった。

「悠樹」

 半身をひねって顔を彼女に向けると、悪だくみをする少年の瞳で笑う。

「またやろう。今度はコレに見つからないように」

「殿下」

 非難の色を含むローミッドの声に肩をすくめ、そして表情を改めた。

「お前の様子がおかしくなったのはイエルシュテインの使者が来てから、だな。・・・聞いたのか?奴の要件」

 窓から差し込む陽光が、彼の顔に影を作る。反応できずにいる悠樹の表情から答えを読み取ったのか、ファルシオが目を伏せた。

「セルナディアが他国の姫を迎え入れることはないし、俺自身にもそのつもりはない。答えを出したのは俺だ。お前が気に病むことではない。だが―」

 言葉を切り、ファルシオは顔を上げて悠樹に正対した。

「黙っていたことで傷つけたのなら謝る。すまなかった」

 一瞬、切なそうに瞳を瞬かせてファルシオは頭を下げると、すぐに姿勢を戻してローミッドと共に歩き始めた。

 その姿が遠ざかっていくのをただ見つめていた悠樹は、はっと我に返って大きく息を吸った。

「ファル!」

 名を呼べば、ぴたりと二人の歩みが止まる。

 背中を見せたまま微動だにしないファルシオと、わずかに向き直ったローミッドに向かって、悠樹はもう一度叫んだ。

「ありがとう!」

(それからごめん。解術(シーク)できなくて。でも絶対できるようになるから。頑張る、から)

 彼を避けていたのは縁談話だけが理由ではない。解術できていない罪悪感もあるがそれだけでもない。まだ言葉にはできそうにない気持ちを押し込めて、ファルシオの言葉にだけ返事を返す。

 謝罪の言葉を伝えるためにこんな茶番を演じた男は振り向くことなく小さく首を振って右手を上げた。

 見ることの出来ないその表情を容易に想像できて、悠樹の笑みが深くなる。

 再び歩き始めたファルシオとローミッドを見送ってから、彼女もシェリスの待つ庭へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ