死にも勝る不幸の呪い-5
「この子ってね、バカなの。大バカ」
目に涙を溜めて言うフィルドに、リジュマールが憮然とする。二人の表情を見比べながら、悠樹はうん、と頷いた。
「不老長寿は人類の永遠の夢だからきっと喜んでもらえる、とか吹き込まれて、あっさりそれを信じちゃうくらい、大バカなの」
フィルドの言葉に頷きかけて、悠樹はリジュマールを振り仰いだ。その反応は、彼の言葉の意味を正確に捉えたことを意味している。フィルドは笑いを収め、すぅっと目を細めた。
「そう、誰かに吹き込まれたんだよ。ファルの呪いには、別の第三者が関わってる」
「そんな……誰なの?!」
「知らん」
ぷい、と横を向いて、リジュマールが答える。
「術とは少し違う、何か不思議な力を持った女だった」
「リジュは、その女の言葉からヒントを得て、術式を完成させた。本来、適性のあるリジュが反動で死にかけるなんてこと、起きるはずがないくらい完璧なものをね」
フィルドの言葉にリジュマールが目を見開いた。
信じられないものを聞いたと言わんばかりの表情を目にして、フィルドの顔に苦笑が浮かぶ。
「そんなにびっくりすること?」
「ああ。お前から完璧だなんて、言われるとは思わなかった」
「……僕に対する認識について問いつめたいところだけど、まぁいいや。あれは完璧だったよ。でも、その裏に別の術式への誘導が隠されていたことに気付かなかった。だからマイナス五百点」
じゃれあうような会話を挟んで、フィルドはまた悠樹に向きなおった。
「隠された術式は、二人の人間の一部分だけ時間を戻し、その部分を入れ替えることで性転換をはかるもの。リジュを苦しめたのは、この入れ替えによる肉体変化だったらしくてね。起き上がれるようになったら女になってたんだよ」
「そっか。肉体変化をさせるほどの術を使えば、必ず気配で見つかってしまう。でも、別の大きな術に紛れ込ませれば……て、入れ替え?!」
声を上げる悠樹に二人の術師が頷いた。
「入れ替えるには相手が必要不可欠。ということは、リジュとは反対に、女から男になったやつがいる。十中八九、不老長寿だなんでふざけた考えを吹き込んだ女、今は男だろうけどね」
翡翠色の瞳が冴え冴えと輝いた。
怒りを内包したその色を見せつけ、瞼を閉じる。次に瞳を開いた時、フィルドはいつもと同じ感情を見せない笑みを浮かべていた。
「それで、最後の質問は何?」
「ん、そもそもの質問に戻るけど、なんでリジュは王城にいたの?」
そういえば、とフィルドもリジュマールへ視線を向ける。二人分の視線を集めて、リジュマールは面倒くさそうな顔で組んでいた腕をほどき、身体を起こした。
「私はセルナディアを出て、今はイエルシュテインの人間だ。初代国王に受けた恩を返すために王家に仕えている」
「それじゃ、イエルシュテインからの使者って……」
無言で頷き、燃えるような赤い髪をかきあげるとリジュマールは悠樹に顔を寄せた。
「イエルシュテイン国王はセルナディアとの姻戚関係をお望みだ」
すっと、悠樹の顔色が変わった。