少年と“約束”-3
「この国を治める国王夫妻には長年御子がありませんでしたが、ある時ついに待望のお世継ぎが生まれました。国中が喜びに湧き、お祝いの宴が開かれました。そのお祝いの最中、ある魔女が城を訪れ、生まれたばかりの皇子にお祝いの術をかけました。ところがそれは、王子に不幸を招く、恐ろしいものだったのです」
(ちょっと待って。どこかで聞いたことがあるような気がする)
滔々と話し続ける少年の話を聞きながら、嫌なものを感じて悠樹は一人、心の中で呟いた。
「王様は驚き悲しみ、王子を救う方法を国中の魔法使いに尋ねました。ところが、呪いをかけた魔女の力が強すぎて、誰もその呪いを解くことができません。城中が悲嘆にくれていたその時、国一番の魔法使いが王子にかけられた呪いを別の形にすることに成功したのです」
(『王子』ってことになってるけど。でもこれって。この流れって……)
悠樹の脳裏に、某有名アニメーションが、有名なBGMと共に浮かんでは消える。
すっかり自分が語る世界に浸ってしまったのか、少年は悠樹の顔色が変化していることに気付いた様子はない。
「さて、年月が流れ、王子は十八歳の誕生日を迎えられました。ところが、めでたいはずのその日、王子が目覚めることはありませんでした。ついに、呪いが発動したのです」
ああ、と大げさに嘆いて少年がソファに身を伏せる。それを、どこか遠い目で見ながら悠樹は口を開いた。
「でも王子は死んだのではありません。死よりも深い、百年の眠りについたのです、とか言うつもり?」
「……すごーい、よくわかったね」
否定してくれることを期待して告げたそれは、ぱちくりと目を大きく見開いた少年によって肯定され、今度は悠樹がテーブルに突っ伏した。
「ありえないありえないありえないありえないありえないーーー」
「ありえないよね。仮にも自分の国を治める王族に不幸の呪いだなんてさ」
「そうじゃないっ!」
大きくテーブルを叩いて立ち上がると、悠樹はうろうろと歩き始めた。
「なんなの一体。異世界とか魔法使いとか眠り姫とか意味わかんない。車にひかれて頭打って病院運ばれて、意識不明の重体とか言われたほうがまだリアル。あーそっか、コレは意識不明状態で見てる夢の中だったりするわけだ。ってことはこれ私の想像の産物?うーわーメルヘン。めでたいよ私の頭。三途の川のほとりは花畑でも賽の河原でもなくてメルヘンの国だったわけだ。あっはっはーって笑ってる場合じゃない!」
「うん。実際、笑ってる場合じゃないと思うよ」
面白いものでも見るように、わめきながらうろつく悠樹を眺めていた少年は、最後の言葉にだけ同調して立ち上がると、部屋の中央を指差した。
「百年の眠りの話を知ってるなら、あとの説明はいらないね。というわけで。僕の友人、セルナディアの王子にかけられた呪いを解いてください」
指し示された先にあるのは、でんと構えた巨大なベッド。にこやかな笑顔を見せる少年の前で、悠樹はひくりと頬をひきつらせた。