死にも勝る不幸の呪い-4
クスクスと忍び笑いが聞こえて、悠樹とフィルドは揃ってそちらに顔を向ける。一人、おかしそうに笑っているリジュマールは二人の視線を集めて、嫣然と微笑んだ。
「いや、お前がきちんと解説しているなんて珍しいと思っていたが、やっぱり最後はそうなるのか」
「だって、疲れたんだもん。リジュは全然喋ってくれないしー」
「あとから聞かされただけで、見ていたわけではないからな」
「そうだけどー」
二人だけで通じる会話を繰り広げ、リジュマールとフィルドは悠樹へと向きなおった。
「セルナディアには、リジュ以上に時間属性を扱える者はいなかったんだ。そして、リジュも自分が使った術の反動を受けて半死半生の状態だった。だから解術を使える人間が、この世界のどこにもいなかったんだよ」
「だから、別世界にいるであろう術師を探して、解術を使ってもらおうという他人任せな考えに至った。」
「時間稼ぎに眠りの術を使ったから、朝を告げる女神暁姫の名前はちょうど良かったんだ」
「だから眠りを覚ます、つまりは呪いを解くのは暁姫と呼ばれる存在だって話をでっちあげた」
交互に話を繋げる二人を順に見て、悠樹は最後の言葉に愕然となった。
「でっちあげ……」
にぃっと口角を上げるリジュマールを軽く睨んで、フィルドは悠樹の目を覗きこんだ。
「言い方は悪かった。方法も正しかったとは思わない。弁解もできない。でも、僕にはリジュ以上の、時間属性と相性のいい術師の力が必要だった。……悠樹の力が必要なんだ」
そう話すフィルドに、まだ見ぬ大人の彼の面影が重なる。
聡明で優秀。国王に百年の眠りを決意させるほど、信の厚い最高位の術師。その面ざしが見えるようで、悠樹はじっとフィルドを見つめていた。その視線の先で、フィルドがふわりと微笑む。
「僕は、百年の間ずっと、悠樹を探していたんだよ」
愛の告白かと勘違いしそうになる言葉と、普段と違う笑顔に悠樹の心臓が跳ねる。熱くなる頬を隠すように視線を逸らし、あわてて口を開いた。
「し、質問が三つ。まず、眠りの術って、結局何を使ったの?」
「何、って、ああ。水属性と風属性だよ。氷と風で、身体を冷やしたの。人は体温が下がりすぎると体の機能を停止させる。その状態にしてから、空間属性で僕の身体の不老長寿と重ねたの」
(冷凍睡眠?!……ここにきてまさかのSF展開)
おおう、と呟いて遠い眼をする悠樹に、次は?と、リジュマールが問いかけた。
「それからリジュのこと。なんで女の人なの?」
言うなり、またフィルドの大爆笑が響き渡った。