死にも勝る不幸の呪い-3
少年は大きく息を吐き出し、美女は再び視線を外へと戻し、悠樹は呆れたような顔でその二人を見比べた。
「老いない、つまり成長しない。そんなファルを元に戻すために呼ばれたのが僕。でもねぇ、時間属性の名手でもあるリジュが詠唱した高位の術式を、時間属性が苦手な僕が解術できるはずがなくてさ。仕方がないから、不老長寿の術の発動を遅らせることにしたんだ」
「遅らせる……って、それも時間属性でしょ?!」
「うん。だから負荷がものすごくてねー。こんなになっちゃった」
そう言って、フィルドは自分の顔を指差した。
「ファルにかけられた術の発動を遅らせると、それと同じだけ僕の身体が若返った。一年遅らせれば一年若返る、十年遅らせれば十年若返る、ってね。
だから十八年が限界。これ以上若返ると、僕の術師としての能力が下がりすぎちゃうからね」
(ってことは?今十歳くらいにしか見えないけど、本当はプラス十八で二十八歳くらい?……じゃない。ファルが成長してるんだから、そこからさらに十八足して……)
「そこ、足し算しない。いいでしょ、僕の歳なんかどうだって」
悠樹を指差し、ため息をつくわりにフィルドの表情は明るい。昔を懐かしむように遠くに視線を投げて、フィルドは言葉を続けた。
「年齢が低下することで、僕は術力の半分を失った。永続的に続く術に干渉したせいで僕自身も不老の身体にもなってしまって、肉体の成熟で術力を上げることは望めない。唯一、時間属性に適正を見せるリジュも、術の反動で死にかけてたし、僕が術に干渉したせいで詠唱者であるリジュ自身にも不老の呪いが跳ね返った。そんな状態で、解決策をたった十八年で見つけるなんて不可能だと思ったんだ。だから、もっと時間がほしいって、国王陛下に願い出た。その間に、必ず解術方法を探すからってね」
くすりと、フィルドが笑う。
不思議そうにみる二人の弟子に、彼はなんでもないように告げた。
「さすがに、その時は死を覚悟したよ。不老長寿は不死じゃない。僕とリジュ、それからファル。全員殺してしまえば真実を闇に葬ることだってできたんだから。……でも、陛下はそうはなさらなかった」
だから、絶対に応えなきゃいけないと思った。
言葉にはならなかったが、彼の瞳ははっきりとそう告げていた。
「僕が一番得意なのは空間属性。術力は半減しても、多少なら無理が効く。だから、外部世界から解術できる人を探すことにした」
「へ?」
「で、暁姫という名前に頼ったの」
「は?」
今までの懇切丁寧な説明から一変、突然、説明下手なフィルドが復活して、悠樹は声を裏返させた。