死にも勝る不幸の呪い-2
「百十八年前……もうすぐ百十九年前になるかな。セルナディアの国王陛下に王子が誕生した。それを祝うため、そこにいるリジュは城を訪れ、彼が得意とする時間属性の術を贈ろうとした」
「ちょっと待った。…………彼?」
話は始まったばかりだったが、言葉の違和感から悠樹はその言葉を遮った。芸術的な曲線美を持つリジュマールの姿は明らかに女性のものだが。
(あの胸は偽物?!まさかのニューハーフさん?!)
悠樹が向ける疑惑の眼差しを冷徹な横顔で跳ね返し、リジュマールは表情どころか視線も動かそうとしない。
「あー、うん。今と違う姿だったからね。それは順を追って説明するよ」
あはは、と声を上げてからフィルドが答え、とにかく、と話を続ける。
「リジュは王子に最高の贈り物をしようと考え、そのための術式を完成させた」
そこまで告げてから、言葉を切る。
自然と表情は真面目なものに変わり、目を閉じて息を吐き出だす。テーブルの上で指を組みなおしてから、悠樹を見つめた。
「それが、不老長寿」
「え?……だって、それは…………」
「彼が望んだのは王子の死なんかじゃない。その逆だったんだよ」
ふん、と鼻を鳴らしてリジュマールが振り返った。長い脚を組みかえ、背もたれに肘をついた妖艶な姿で皮肉そうな笑みを見せてから、すぐに視線を逸らす。
そして顎で続きを促した。
「次代の王の誕生とその長寿が約束され、その場にいた人は喜んだ。でも、すぐにその意味に気付いて青ざめた」
その理由を視線で問われ、悠樹は首をかしげた。
永遠に生き続けたいとは思わないが、命と引き換えに異世界に連れてこられることになった悠樹にとって、生への執着は理解できないことではない。リジュマールのしたことが、“死にも勝る”などと言われるほど、悪意のあるものとは思えなかった。
しばらく考えてから、悠樹は首を横に振った。
「よく考えて、悠樹。不老長寿ってことは、老いることなく生き続けるってことだよ?」
溜め息まじりにそう告げるフィルドと、額を押さえて溜息をつくリジュマールを見比べて、悠樹は小さな叫び声を上げた。
「もしかして、赤ちゃんのまま大きくならない?」
「正解」
フィルドは頷いて苦笑し、リジュマールは苦虫を潰したような顔で項垂れた。