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眠れる城の王子  作者: 鏡月和束
眠れる城の王子 〜本編〜
76/166

死にも勝る不幸の呪い-1

(なんか、めちゃくちゃおかしなことになってるんですけど)

 悠樹はそっと視線だけを上げて、そばに座る人の顔色を伺った。

 フィルドは相変わらずくすくすと笑い声を洩らし、リジュマールという名の女性は黙り込んで外に視線を向けたまま、どちらも動く気配はない。東屋に不似合いな険悪な空気に、悠樹はまたひっそりと溜め息をついた。

(そもそも、一国の王子に不幸の呪いをかけたのが、フィルドの弟子で?その本人が堂々敷地内に乗り込んでくるってどういうこと?)

 その疑問を口に出して、ようやく口を開いたのはフィルドだった。卓の上に肘をつき、手を組んでそこに顎を乗せるとすっと目を細めた。

術師(デフィーノ)としての力がそれだけ強くなれば、そろそろ気づいてるんじゃない?ファルにかけられた“不幸の呪い”のこと」

 探るような視線で瞳を覗きこまれ、悠樹は確証を持てないまま頷いた。

「……今考えると、あの眠りの術って、どこかおかしかった気がする。“不幸の呪い”がなんなのかわからないけど、私はただ本当に、ファルを起こしただけ。あれは解術(シーク)なんかじゃなかった、と思う。それに――」

 そこで区切って、フィルドを見つめ返す。

 こちらを見る翡翠色の瞳にある光が、悠樹の中にある小さな可能性を確信に変えた。

「よくわからないけど、ファルにはまだ、何かの術がかけられてる、気がする」

 膝に置いた手をぎゅっと握りしめる。

 それは恐怖に近い感情だった。

 悠樹がここで生活できているのはファルシオの呪いを解いた暁姫(エイル)だからだ。その呪いが継続していると知れれば、悠樹にその意思はなくても周囲の人を騙したことになってしまう。

 だが、フィルドは深く頷いた。

「正解。術の軌跡は僕が消したから、普通の術師はわからないはずなんだけど……やっぱり君、すごいや」

 翡翠色の瞳が瞬き、ちらりとリジュマールのほうへ視線を送る。それを受けて彼女はわずかに顎を引き、また視線を外に戻した。

「本当は、もう少し解術の能力を上げてから話すつもりだったんだけどね。リジュもいることだし、全部教えるよ。“死にも勝る不幸の呪い”も、百年前のことも。それから、暁姫のことも」

 フィルドが静かに告げる。

 その口調から間延びした響きは消え、幼さはかけらも感じられない。悠樹も姿勢を正してフィルドを見据えた。

「ファルの“死にも勝る不幸の呪い”は、僕には他の形に変えることすらできなかった。眠りの術は、それを隠すためのカモフラージュでしかない。そして……悠樹が考えている通り、呪いは今もファルの身体に残っている」

「それじゃ……」

 目を見開いて呟く悠樹に、フィルドは申し訳なさそうに目を伏せた。

「“僕の友人の呪いを解いてほしい”……この約束は、まだ果たされていない」


 だから、まだ君を帰してあげられないんだ。


 そう続けたフィルドを見つめ、ショックを受けるよりもどこか安堵している自分がいることに、その理由に。悠樹はまだ気付いていなかった。


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