二人の使者-4
腰まで伸びた赤い髪。小麦色の肌と長い睫毛に彩られた切れ長の赤い瞳、形の良い紅い口唇。黒いロングワンピースに覆われた豊満なバストと細い腰、スリットからのぞく長い脚。
ほっそりとした首にアクセサリーの類はなく、代わりにアゲハ蝶の黒い部分だけを取り出したような文様が刻まれていて、それが少し異様でもあったが。それでも、思わず振り返ってしまうほど妖艶な、大人の魅力を持った美女だ。
彼女はフィルドを見、すぐに悠樹に視線を移して形のいい眉をひそめた。
「小娘。お前、何者だ」
(それ私のセリフだからっ!)
あからさまな敵意を含んだ尊大な誰何の声に心中で突っ込んで、悠樹はちらとフィルドを見た。
そして目を疑う。
「……フィルド?!」
フィルドは女性に背を向け、卓に手をついていた。うつむいて手を口にあて、小刻みに震えているようにも見える。あきらかに、様子がおかしかった。
「フィルド!ちょっと、大丈夫…………?」
息を詰めているフィルドに駆け寄ろうとした悠樹を制して、フィルドが顔を上げる。その顔は赤く染まり、目には涙が溜まっているが、目尻は下がり口角は上がっている。予想とは違う感情がその顔に浮かんでいるのを見て、悠樹も言葉を切った。
「答えろ小娘。お前、何者だ」
無視された形になった女性が、再び声を上げる。だが悠樹が答えるより早く、フィルドが女性に向きなおった。
「ファルにかけた、僕の眠りの術を、解除した、コ、ぷ、くくく、はははははは」
震える言葉は最後に笑いに消え、フィルドはすぐに女性から目を逸らした。
「ひ、久し振りぃひひひひ、あ、あ、相変わらず、だね、くははははは」
目も合わさず笑い声を洩らすフィルドに、女性の顔が赤くなり眉が跳ね上がった。
「いい加減に慣れろ」
「無理無理無理無理」
「即答するな!だいたいお前だって――」
「あ、そうだ。悠樹、紹介するよ」
「人の話を聞け!」
怒りと笑い。
まったく異なる感情のままに頬を染め、肩を震わせる二人。
その会話を呆然と聞いていた悠樹に、フィルドが思い出したように声をかけた。
「あの赤いのがリジュマール・カナン。元、僕の弟子」
「へ?弟子?」
「そう、でもって、ファルに“死にも勝る不幸の呪い”をかけた張本人」
柳眉を逆立て、握りこぶしをつくる美女を指差して、フィルドはまた、ぷーっと噴き出した。